著者は、FFS(Five Factors&Stress)理論の普及に努める中で、多くの「成功者」と出会ってきた。著者の考える成功の定義は、日々心配事や諍(いさか)い事がなく、家族や仲間に囲まれて楽しく幸せに生きているということだ。
著者の定義における「成功した人たち」の個性には、共通した特徴があるわけではない。彼ら彼女らに共通しているのは「自分の特性を理解し、強みを活かし、弱みは仲間と補完している」という点だ。
それとは対照的に、知識や経験が豊富であっても、悩み苦しんでいる人もいる。そうした人たちは自分に自信がなく、自己否定的で、どこか無理をしながら生きている。その原因は、自己理解が不十分であるか、間違った自己理解をしていることにある。
「自己理解」は、人生を成功に導くための基盤であり、活き活きとキャリアを伸ばしていくための指針にもなるものだ。自分の個性を理解したうえで、自分とは異なる個性を理解すれば、すれ違いによるストレスを減らすことができるだけでなく、仕事の成果も上がりやすくなる。
FFS理論をもちいて『宇宙兄弟』の主人公である南波六太(ムッタ)を分析すると、彼は日本人の平均値に近い個性を持っていることがわかる。『宇宙兄弟』では、ネガティブ思考で自己否定的だったムッタが、人との出会いを通じて自分の特性を理解し、強みを活かし、弱みは仲間と補完する人間へと成長していくさまが描かれる。それはまさに、自己理解と他者理解で人間関係を作ろうとする本書が目指すところだ。
『宇宙兄弟』には、それ以外にも様々な個性の登場人物のエピソードが一人ひとり丁寧に描かれている。個性がポジティブに発揮された状態や、逆にネガティブに出てしまった状態も描かれ、登場人物の個性や人間関係を理解しやすい。その中から自分の個性に似ている人を見つけると、その人物が直面する課題やそれに対する解決策が、自分の課題を解決するヒントになるはずだ。『宇宙兄弟』を通してFFS理論を理解し、仕事や人生に役立てていただきたい。
FFS理論は、ストレス理論をベースに小林惠智(けいち)博士によって開発されたもので、環境や刺激に対する考え方や捉え方の特性を5つの因子として計量化したものだ。FFS診断を受けると、「凝縮性」「受容性」「弁別性」「拡散性」「保全性」の5つの因子とストレス状態が数値化され、自分の個性に影響を与えている因子を特定することができる。5つの因子について、簡単に説明しよう。
「凝縮性」の因子は、自らの考えを固めようとする力だ。凝縮性が高い人は、自分の中の価値規範を強く持っていてこだわりが強く、価値観に合わないものは受け入れない頑固な一面を持っている。
「受容性」は、無条件に受け容れる力だ。受容性が高い人は、優しく面倒見がよく、経験知が高いと頼もしい存在だが、経験知が少ないと要望を受け容れすぎてキャパオーバーになりがちだ。
「弁別性」は、白黒はっきりさせる力だ。弁別性が高い人は、常に合理的で計算的に行動できるが、感情が介入しないため、機械的で冷たく見えることもあるのが特徴だ。
「拡散性」は、飛び出していこうとする力だ。拡散性が高い人は、周囲を気にせずに挑戦できるが、飽きっぽいために周りを振り回すタイプでもある。
「保全性」は、維持しながら積み上げる力だ。保全性が高い人は、プランを立ててコツコツ進めるのが得意で、周囲と協調して組織を作ることができる一方で、安全第一でなかなか行動できないときもあるのが特徴だ。
5つの因子に優劣はない。自分に影響を与える因子を知ると、自己理解が深まるとともに、他者との違いやすれ違いの原因も明らかになり、より良いコミュニケーションをとるためのヒントを得られる。
『宇宙兄弟』の主人公、ムッタの性質を、FFS診断をもちいて分析してみよう。「ドーハの悲劇」の日に生まれたことを自虐的に語るムッタは、ネガティブな性格だ。宇宙飛行士になりたいという夢を持っていたが、失敗を恐れて夢から逃げていた。そんな彼は、メーカーをクビになったことをきっかけに、周囲のサポートを得ながら宇宙飛行士になって成長していく。
ムッタがもしFFS診断を受けたら、
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