「好き嫌い」と経営

未読
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「好き嫌い」と経営
ジャンル
著者
出版社
東洋経済新報社
出版日
2014年07月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「良し悪し」ではなく、経営者個人の「好き嫌い」に焦点をあて、その経営者の魅力や戦略の源泉を探るという切り口は、今までにない斬新な切り口だ。

ベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』などの著書で知られる楠木氏は、人の「好き嫌い」を聞くことを好む。同氏によれば、優れた経営者の重要な意思決定には、「理屈では割り切れない直観(センス)」が大きく作用しており、その直観を支えているのが経営者個人の好き嫌いなのだという。

本書に登場するのは錚々たる顔ぶれだ。石黒不二代(ネットイヤーグループ)、江幡哲也(オールアバウト)、大前研一(経営コンサルタント)、佐山展生(インテグラル)、重松理(ユナイテッドアローズ)、出口治明(ライフネット生命保険)、永守重信(日本電産)、新浪剛史(ローソン)、原田泳幸(日本マクドナルド)、藤田晋(サイバーエージェント)、星野佳路(星野リゾート)、前澤友作(スタートトゥデイ)、松本大(マネックス証券)、柳井正(ファーストリテイリング)、の14名。いずれも名実ともに日本を代表する経営者として認知されている方ばかりである。

彼らと楠木氏のユーモアあふれる「好き嫌い」の対談を通じて、生々しく描き出されたビジネスの戦略の背景には思わず息を呑んでしまう。さらには「何でも一番が好き」という経営者もいれば、「人との競争が嫌い」という経営者もいたりして、「あの経営者にこんな一面があったとは」と彼らの素顔を垣間見ることができる点が純粋に面白い。名経営者の戦略の起源に迫っていきたいという方には必読の書である。

ライター画像
松尾美里

著者

楠木 建
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て2010年より現職。専攻は競争戦略。著書に、20万部を超えるベストセラーになった『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)のほか、『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)、Dynamics of Knowledge, Corporate System and Innovation(共著、Springer)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    優れた経営者は誘因(インセンティブ)ではなく、自分の内側から湧き上がる動因(ドライバー)によって、戦略ストーリーを作り動かしている。
  • 要点
    2
    経営者の動因を形作るものは「良し悪し」ではなく、その人の「好き嫌い」である。
  • 要点
    3
    永守重信氏は、常に上を目指し、成果を目指すプロセスに喜びを見出しており、やると決めたら情熱をもって徹底的にやり抜く。
  • 要点
    4
    柳井正氏は、世の中に大きなインパクトを与えること、そしてデカい商売をやることを信条としている。一部の人を対象としたニッチ事業は競合に脅かされる懸念があり、大きな社会貢献にもつながらないため、好まない。

要約

【必読ポイント】 永守イズムの極致(永守 重信)

自分のポリシーに忠実
grmarc/iStock/Thinkstock

「何でも1番が好き」。日本電産を設立し、世界的な総合モーター企業グループを築き上げた永守重信氏の個性が色濃く現れた言葉だ。そのこだわりは並大抵ではなく、新幹線の座席や、ホテルの部屋番号すら必ず1番を選ぶと決めている。

日々、何時から何時まではこれをする、という自分で決めたスケジュールを守ることも譲れないポリシーだ。

そんな永守氏の好き嫌いの基準は「自分の生活や仕事に役立つかどうか」。例えばフィクションを読んだりゴルフをやったりしても経営には役に立たない、と割り切っている。何よりも仕事が大好きで仕事最優先。「10兆円規模の会社にする」という目標を達成するまでは趣味もお預けだという。

社長業のなかで一番心が躍るのは、会社を買う、新しい社員を面接して入社させる、大きな仕事を取るといった、「会社の成長」に関わることだ。「成長」こそが永守氏の経営の中核にあるのである。

京都の「始末」と「いけず」が好き

出身地である京都の文化「始末」と「いけず」は、永守氏自身にも染みついている。

「始末」とは「必要でないところにはお金を使わず、必要なところには徹底的に使う」ということ。「いけず」とは「意地悪」ではなく「子どもでも弟子でも部下でも、厳しく育てる」ということを意味する。

身分不相応なことはしないと心に決めている。さらに、どんなに巨万の富を築いたとしても質素さや初心を忘れない。そういう感覚を失わない人でなければハードワークを継続できないというのが、ハードワーカーの典型である永守氏の考えだ。

人心掌握がカギ

永守氏曰く、若いときにはすごくモテたが、事業一筋だったため、女性にはまったくなびかなかった。

家族も部下も女性も、人の心をつかむ根本は全て一緒、と語る永守氏は、ヤクザ映画が好きなのだという。「親分のためなら死んでもいい」とまで言わせる、組長の並はずれた人心掌握術に憧れるそうだ。管理や指示ではなく、会社を「統率」する上で、こうした力は不可欠である。

そうはいっても離れていく人ももちろんいる。しかし、そんな場合も永守氏はけっしてあとを追わない。自然にまかせ、自分と同じ考えをもつ者が集まってきて、同じ目標に向けてがんばるというのが、一番の喜びだからだ。

「松下幸之助の本」はきれい事?

永守氏の「好き嫌い」はまだある。

世界自由競争の舞台で勝負できる「基幹産業」以外の事業には、生まれ変わっても携わりたくない。存在価値が大きく、グローバルな仕事がいい。

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要約公開日 2014.08.12
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