マネジメント論の要諦は、実は『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』だけを読んでいてもつかみ切ることが難しい。そこで、的確に理解するために『論語』をサブテキストにしてドラッカーの思想が凝縮された大書『マネジメント――課題、責任、実践』を読み解くという方法を提唱したい。
彼の思想の背景には、軍隊、企業、国家が「組織化」され、ファシズムが世界を覆っていく時代における、「全体主義」との闘いがある。一方、孔子が生きた春秋戦国時代はまさに中華世界至上初めて「官僚組織」の運営が求められた時代であり、ドラッカーと同様に「組織運営」の新たな壁にぶつかっていた時代だと言える。そのため、ドラッカーの思想の下敷きには孔子の思想があると考えられる。孔子が唱えた「政」という概念は、ドラッカーの「マネジメント」の先駆であるのだ。
「最上至極宇宙第一」の書と称される『論語』を筆者なりに解釈しながら、『マネジメント』と照らし合わせていきたい。『論語』に登場する「君子」とは、人格的にも道徳的にも優れた「良きマネージャー」と同義である。そして、『論語』の中心的概念である「仁」は、生きた知識を「学び」、しっかりと身につける「習い」の喜びを知り、学習回路を開いている状態だと考えられる。
一方、ドラッカー経営学の根幹には、「フィードバック」という概念がある。彼は「組織の意思決定には、フィードバックが必ず組み込まれていなければならない」と説いている。孔子の「仁」と、ドラッカーの「フィードバック」は共通性が高いと言える。つまり、マネジメントを正しく行う「マネージャー」は「君子」つまり「学習回路が開いている状態を維持し、過ちを素直に認めてそれを修正できる仁たりうる者」であるのだ。
この「仁」=「人格の誠実さ」はマネージャーの最も大切な資質である。ドラッカーのいうintegrityとは、フィードバックを通じた学習を継続する一貫性を備えた「全人格的に対応するような誠実さ、正直さ」を指し、「仁」とほぼ同一概念だと考えるのが妥当である。
『マネジメント』には「企業の目的は『顧客の創造』である」という有名な一文があるが、これは「お客様目線」とは別物である。顧客が何を求めるのかを考える以前に「自分たち企業は何をすべきか(=義)」を考えなくてはいけない。しかし、多くの企業は、結果としてついてくるはずの「利益」を「目的」や「目標」とはき違えている。
イノベーションの成功例として知られる「旭山動物園」は、「顧客の創造」の本質を物語る端的な例である。一時期は、「動物園」という組織の「目的」を忘れて「客を集める」ことにばかり焦点を当てた施策を行ったため、存続の危機に陥った。しかし、当時飼育係長だった小菅氏が「動物たちの本当の姿を見せていく」という、飼育員と動物たちにとっての「理想・あるべき姿」を考え抜き、ミッションを決定した。このミッションから「どうすれば動物の迫力を伝えられるか」を問い、「行動展示」という手法を生み出した。彼らはまさに入場者減少の根本の原因と向き合い、「フィードバック学習」を行ったのだ。
自らの行いを注意深く観察して自らを知り、自らのあり方を変える。これこそがマネジメントの本質である。
3,400冊以上の要約が楽しめる