iPhoneやiPadなど世界を驚かす新製品を発表してきたアップル。アップルを率いていたカリスマ創業者スティーブ・ジョブズは、自らとアップルをマイクロソフトに対抗する反逆者と位置づけ、体制に逆らうイノベーターとしてのアイデンティティを長年にわたって表わしてきた。
しかしiPhoneやiPadの成功によって市場を支配する立場となるにつれ、アップルは虐げられた者という見方ではなく、傲慢な巨人と言われるようになる。
アドビのFlashをサポートしないと表明したことや、未発表だったiPhone 4の試作品を暴露したジャーナリストに対して手荒な刑事捜査を行ったこと、iPhone 4で発生したアンテナ問題について謝罪がなかったこと。今までアップルの味方だった世間は、これらの行動に対して次第に批判の声を強めていった。
2010年に大きな成長を遂げたアップルだったが、年末に行われた幹部研修は暗い雰囲気に包まれていた。どう見てもジョブズの体調が良くないからだ。2009年に行われた肝臓移植を経て一旦体調が回復していたかのように思えたが、このときのジョブズはいつものように誰かを叱り飛ばすこともなく静かだったという。ジョブズの癌が再発したのだ。
2011年1月17日、ジョブズは全社員にあてて電子メールを送り、病気療養休暇を取得することを発表。しかしその後も癌の進行を食い止めることはできず、7月には癌が体中に広がっていた。会社の経営ができない状態になったら辞任すると公言していたジョブズはついにCEOを辞する決意を固め、後任にティム・クックを推薦する。このときジョブズはクックに「僕だったらなにをしただろうかと考えないでほしい。ただ、正しいことをすればいい」とアドバイスを与えたという。
2011年8月24日に辞任したジョブズは、同年10月5日に死去。アップルという拡大する帝国の舵取りを任せられることになった新CEOのクックは、亡くなってもなお影響力を失わないジョブズに肩を並べる存在になれるのかという問題に直面することになった。
ジョブズは、彼がいなければアップルが成り立たないほどのスーパースターだった。デザイン、製品開発、マーケティングなどの戦略のすべてに意見し、経営陣も彼の弱みを補い強みを伸ばせることを条件に厳選されていた。
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