サーキュラー・エコノミー

企業がやるべきSDGs実践の書
未読
サーキュラー・エコノミー
サーキュラー・エコノミー
企業がやるべきSDGs実践の書
未読
サーキュラー・エコノミー
出版社
出版日
2020年08月17日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

最近、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉をよく耳にするようになった。本書を読むと、SDGsの概念のもと、名だたるグローバル企業が、従来の大量生産・大量消費の経済システムから脱却し、持続可能なビジネスへと移行しつつあることがわかる。その背景には、北極圏の気温上昇や海洋プラスチック廃棄物問題、世界の人口増加によるエネルギー資源や食料の枯渇などにより、これまでのような経済活動が立ち行かなくなっていることがあるそうだ。

その状況は、日本も例外ではない。資源の価格が高騰し、大量生産していた製品が売れなくなってきた今、「リサイクリング・エコノミー」は持続不可能であると、著者は強調する。

本書のテーマである「サーキュラー・エコノミー(「循環」型経済)は、SDGsを達成するための実践的な考え方であるという。ビジネスであるからには、単なる社会貢献ではない。これまでと違う経済活動によって、環境の保全だけでなく、20年、30年先まで成長し続ける、文字通り「持続可能な」仕組みを手に入れた実例が、本書では紹介されている。

新しいビジネスの手法を生み出したい、持続可能なビジネスを展開したいと願う読者にとっては、「サーキュラー・エコノミー」を知ることはもはや避けては通れないといっても過言ではない。もちろん、それ以外の読者にとっても、教養として知っておくべき考え方であることは間違いない。本書の導きにしたがって、新しい経済活動への一歩を踏み出してほしい。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

中石和良(なかいし かずひこ)
松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画業務に携わる。その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システムを立ち上げ、持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。2018年に「サーキュラーエコノミー・ジャパン」を創設し、2019年一般社団法人化。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。

本書の要点

  • 要点
    1
    サーキュラー・エコノミーは、「まずは、廃棄物と汚染を発生させない」ことを前提とする。
  • 要点
    2
    製品をサービスのように提供するビジネスモデルに移行すれば、企業とユーザーが長期的で持続的な関係を築くことができるようになり、新たなビジネスチャンスが生まれる。
  • 要点
    3
    サーキュラー・エコノミーへの移行時は、新たな発想や手法に思い切って舵を切ることになる。すぐに利益が出るものではないため、20年、30年という中長期的ビジョンを持つ必要がある。

要約

リニアからサーキュラーへ

サーキュラー・エコノミーとは
die-phalanx/gettyimages

従来の大量生産・大量消費を前提とした経済システムは、「リニア・エコノミー(「直線」型経済)」と呼ばれる。リニア・エコノミーは、地球から資源やエネルギーを奪い、製品を製造・販売し、使い終わったら廃棄するといったふうに、直線型で進んでいく。世界的な人口増加によって資源が枯渇し、資源の価格が高騰する中、リニア・エコノミーは破滅寸前だ。

加えて、温室効果ガスが原因となって地球温暖化が進み、世界各地で甚大な自然災害が起こるようになった。処理しきれない廃棄物が海に流れることで、生態系を脅かす環境問題にも発展している。こうしたことからも、リニア・エコノミーは持続不可能な経済システムだといえる。

日本ではこれまで、「リサイクリング・エコノミー」が進められてきた。リサイクリング・エコノミーは、「廃棄物の発生を抑制し、廃棄物のうち有用なモノを循環資源として利用。適正な廃棄物の処理を行い天然資源の消費を抑制することで、環境への負荷をできる限り低減する」と表現できる。これは、「廃棄物を排出すること」が前提であり、あくまでリニア・エコノミーの延長線上にあるものだ。

一方、サーキュラー・エコノミーは、「まずは、廃棄物と汚染を発生させない」ことを前提とする仕組みである。リサイクリング・エコノミーとサーキュラー・エコノミーは、似て非なるものだといえる。

サーキュラー・エコノミーの3原則
Kwangmoozaa/gettyimages

著者は、サーキュラー・エコノミーを次のように定義する。

「再生可能エネルギーに依存し、有害な化学物質の使用を最小化・追跡管理した上で、製品・部品・材料・資源の価値が可能な限り長期にわたって維持され、資源の使用と廃棄物の発生が最小限に抑えられる経済システム」

この実践においては、「サーキュラー・エコノミーの3原則」に照らし合わせながら考える必要がある。具体的には「廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う」「製品と原料を使い続ける」「自然システムを再生する」の3つだ。

「サーキュラー・エコノミーの3原則」を実現するための循環の仕方を図式化したものに、「サーキュラー・エコノミー・システム・ダイアグラム」、通称「バタフライ・ダイアグラム」と呼ばれるものがある。「バタフライ・ダイアグラム」は、左右に2つの循環が広がる形をしている。片方は、石油や金属などといった「枯渇資源」を循環させる場合の「技術的サイクル」で、もう片方は、植物・動物などといった「再生可能資源」の循環を示す「生物的サイクル」だ。これら2つのサイクルは循環の仕方が異なるため、分けて考えなければならない。

総合コンサルティング会社のアクセンチュア・ストラテジーは、サーキュラー・エコノミーによる5つのビジネスモデルを特定している。それは、(1)循環型供給、(2)シェアリング・プラットフォーム、(3)サービスとしての製品、(4)製品寿命の延長、(5)資源回収とリサイクルの5つだ。

これらは単独で存在するものではなく、製品のライフサイクルのそれぞれのステージに位置する。例えば「(1)循環型供給」は、循環型の仕組みが作れる原料や素材を開発し、供給や加工を行うビジネスだ。このとき、「(2)シェアリング・プラットフォーム」から「(4)製品寿命の延長」を有効に実現できることや、「(5)資源回収とリサイクル」を視野に入れた設計で取り組む必要がある。

「(2)シェアリング・プラットフォーム」と「(3)サービスとしての製品」は、製品をシェアするのか、サービスとして提供するのかの違いで分かれる。いずれも製品の所有権を消費者ではなくメーカーが持つ点で、従来のリニア・エコノミーのように、消費者に製品を早く捨ててもらい、次々に新しい製品を買ってもらうビジネスとは異なる。

著者が特に注目しているのは「(3)サービスとしての製品」だ。このビジネスモデルによって、企業とユーザーの関係性は変化を遂げるだろう。これまで購買時の1回限りで終わっていた関係性が、長期的で持続的なものとなる。すると、ユーザーのニーズを吸い上げることができ、新たなビジネスチャンスが生まれるはずだ。

【必読ポイント!】企業の取り組み

フィリップス:製品に価値を付加する
ridvan_celik/gettyimages

オランダの電機メーカー、フィリップスは、法人向けに「サービスとしての照明(Lighting as a Service)」というビジネスをはじめた。米国ワシントンDCの駐車場に設置された1万3000カ所以上の照明をすべて無料でLEDライトに交換し、10年間にわたるメンテナンス契約を結ぶ。そして、削減できた電気料金の額に応じて報酬を得るというものだ。

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要約公開日 2021.02.20
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