従来の大量生産・大量消費を前提とした経済システムは、「リニア・エコノミー(「直線」型経済)」と呼ばれる。リニア・エコノミーは、地球から資源やエネルギーを奪い、製品を製造・販売し、使い終わったら廃棄するといったふうに、直線型で進んでいく。世界的な人口増加によって資源が枯渇し、資源の価格が高騰する中、リニア・エコノミーは破滅寸前だ。
加えて、温室効果ガスが原因となって地球温暖化が進み、世界各地で甚大な自然災害が起こるようになった。処理しきれない廃棄物が海に流れることで、生態系を脅かす環境問題にも発展している。こうしたことからも、リニア・エコノミーは持続不可能な経済システムだといえる。
日本ではこれまで、「リサイクリング・エコノミー」が進められてきた。リサイクリング・エコノミーは、「廃棄物の発生を抑制し、廃棄物のうち有用なモノを循環資源として利用。適正な廃棄物の処理を行い天然資源の消費を抑制することで、環境への負荷をできる限り低減する」と表現できる。これは、「廃棄物を排出すること」が前提であり、あくまでリニア・エコノミーの延長線上にあるものだ。
一方、サーキュラー・エコノミーは、「まずは、廃棄物と汚染を発生させない」ことを前提とする仕組みである。リサイクリング・エコノミーとサーキュラー・エコノミーは、似て非なるものだといえる。
著者は、サーキュラー・エコノミーを次のように定義する。
「再生可能エネルギーに依存し、有害な化学物質の使用を最小化・追跡管理した上で、製品・部品・材料・資源の価値が可能な限り長期にわたって維持され、資源の使用と廃棄物の発生が最小限に抑えられる経済システム」
この実践においては、「サーキュラー・エコノミーの3原則」に照らし合わせながら考える必要がある。具体的には「廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う」「製品と原料を使い続ける」「自然システムを再生する」の3つだ。
「サーキュラー・エコノミーの3原則」を実現するための循環の仕方を図式化したものに、「サーキュラー・エコノミー・システム・ダイアグラム」、通称「バタフライ・ダイアグラム」と呼ばれるものがある。「バタフライ・ダイアグラム」は、左右に2つの循環が広がる形をしている。片方は、石油や金属などといった「枯渇資源」を循環させる場合の「技術的サイクル」で、もう片方は、植物・動物などといった「再生可能資源」の循環を示す「生物的サイクル」だ。これら2つのサイクルは循環の仕方が異なるため、分けて考えなければならない。
総合コンサルティング会社のアクセンチュア・ストラテジーは、サーキュラー・エコノミーによる5つのビジネスモデルを特定している。それは、(1)循環型供給、(2)シェアリング・プラットフォーム、(3)サービスとしての製品、(4)製品寿命の延長、(5)資源回収とリサイクルの5つだ。
これらは単独で存在するものではなく、製品のライフサイクルのそれぞれのステージに位置する。例えば「(1)循環型供給」は、循環型の仕組みが作れる原料や素材を開発し、供給や加工を行うビジネスだ。このとき、「(2)シェアリング・プラットフォーム」から「(4)製品寿命の延長」を有効に実現できることや、「(5)資源回収とリサイクル」を視野に入れた設計で取り組む必要がある。
「(2)シェアリング・プラットフォーム」と「(3)サービスとしての製品」は、製品をシェアするのか、サービスとして提供するのかの違いで分かれる。いずれも製品の所有権を消費者ではなくメーカーが持つ点で、従来のリニア・エコノミーのように、消費者に製品を早く捨ててもらい、次々に新しい製品を買ってもらうビジネスとは異なる。
著者が特に注目しているのは「(3)サービスとしての製品」だ。このビジネスモデルによって、企業とユーザーの関係性は変化を遂げるだろう。これまで購買時の1回限りで終わっていた関係性が、長期的で持続的なものとなる。すると、ユーザーのニーズを吸い上げることができ、新たなビジネスチャンスが生まれるはずだ。
オランダの電機メーカー、フィリップスは、法人向けに「サービスとしての照明(Lighting as a Service)」というビジネスをはじめた。米国ワシントンDCの駐車場に設置された1万3000カ所以上の照明をすべて無料でLEDライトに交換し、10年間にわたるメンテナンス契約を結ぶ。そして、削減できた電気料金の額に応じて報酬を得るというものだ。
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