ウィズ/アフター・コロナのアート界の市場動向を明らかにするために、まずは新型コロナウイルス発生前のアート市場の状況を整理する。2020年3月に発表された「2019年世界のアート(美術品売買)市場規模」は、前年より5パーセント減少した641億2300万ドル(約6兆9900億円)であった。これはニュージーランドの国家予算に匹敵する額である。2009年にはリーマン・ショックの影響で一時的に大きく縮小したものの、アート市場規模は2年で金融危機以前の水準を超えるに至った。
2020年の歴代最高価格アート作品の上位5作品のうち、4作品を所有しているのは中東の産油国と中国だ。新型コロナ感染拡大直前のアート市場は彼らによってけん引されてきた。
2016年に作成された「富のピラミッド」によると、資産100万ドル(約1億円)を超える、いわゆるミリオネアと呼ばれる富裕層は、世界人口のわずか0.7%である。しかし、そのわずかな人々が全世界の45.6%もの資産を保有している。現代は、トップ1%未満とその他99%で世界の富が二分されるという強烈な格差社会なのである。
一生をかけても使いきれないほどの資産を持つビリオネアは、もはや普通の消費によって満足を得ることは不可能だ。そんな彼らの成功や莫大な資産を可視化し、単純な物欲を満たすことでは得られない満足感を提供し得るのが、アート作品のコレクションだ。傑作と呼ばれる作品は将来の価格上昇も期待でき、有望な投資対象でもある。優れた資産性があるうえに、権力を可視化し、名誉欲や特別な物欲までも満たしてくれるアート作品は、富裕層によって代替不能な存在なのである。
新型コロナウイルスの感染拡大による景気低迷によって、一時的にアート市場が縮小する可能性はある。しかし、リーマン・ショックの事例から見ても、数年で以前までの規模を超えることは間違いないだろう。
新型コロナウイルス感染拡大前は、廉価な作品と、高い投資効果を期待できる高額な作品の購入が、アート市場の半分を占めていた。この二極化の動きは、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、さらにその傾向を強めている。
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