グローバリズムが世界を滅ぼす

未読
グローバリズムが世界を滅ぼす
出版社
文藝春秋
出版日
2014年06月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

グローバリズムということばは、聞き慣れて久しい感がある。しかし、グローバリズムは世界に何をもたらしてきたのか? という問いに、わたしたちは自信をもって答えることができるだろうか。

これまで、世界経済の現状と課題について曖昧にしか知らなかったという人にこそ読んでほしいのが本書である。著名な歴史人口学者、経済学者、内閣官房参与らが、現代世界を席巻する「規制撤廃が成長戦略に不可欠で、経済のグローバル化が世界を救う」という主張に真っ向から反対する。彼らは「グローバリズムこそが経済危機、格差拡大、ひいては社会崩壊を招いている」と警鐘を鳴らし、現在の危機的状況の根本原因は「エリートの甚だしい劣化」だと口をそろえる。

本書では、グローバル資本主義が引き起こした弊害が総括され、それでもグローバル資本主義が展開され続ける理由や背景が明らかにされる。その上で、グローバル資本主義の巨大な渦にいかに立ち向かえばいいのかということについて、議論がなされている。歴史的観点の軸と世界的状況の軸を縦横無尽に移動し、本テーマを掘り下げてゆくプロセスは、スリリングであると同時に、自分自身が当たり前だと思っていた価値観がいかに一面的であったのかを思い知らされる。

グローバリズムの潮流の中にある世界と日本の関係を俯瞰する、1つの視座を獲得したい。そんなニーズにしっかり応えてくれる本書は、どの産業に従事する人にも必読の書だといえる。

ライター画像
松尾美里

著者

エマニュエル・トッド
1951年生まれ。フランスの歴史人口学者・家族人類学者。国・地域ごとの家族構造や人口動態に着目し、ソ連崩壊、米国発の金融危機、アラブの春を予言。過度な自由貿易が世界不況を招いていると警告。

ㇵジュン・チャン
1963年生まれ。ケンブリッジ大学経済学部准教授。ソウル大学で学んだのち、ケンブリッジ大学で博士号を取得。韓国の新自由主義的経済政策を批判し、中国やインドのいびつな経済発展の脆弱さをも指摘。

柴山 桂太
1974年生まれ。滋賀大学経済学部准教授。2つの世界大戦は19世紀末から20世紀前半にかけてのグローバル化(第1次グローバル化)がもたらしたものであり、現在は第2次グローバル化にあたることを指摘。

中野 剛志
1971年生まれ。評論家。元京都大学大学院准教授。エディンバラ大学社会科学博士。経済ナショナリズム研究をもとに、自由貿易推進論の誤謬と、保守主義と経済自由主義を区別することの重要性を指摘。

藤井 聡
1968年生まれ。京都大学大学院教授(国土計画等の公共政策に関する実践的人文社会科学全般)。内閣官房参与。京都大学レジリエンス研究ユニット長として、本書の元となる国際シンポジウムを主宰。

堀 茂樹
1952年生まれ。慶應大学総合政策部教授(フランス文学・哲学)。翻訳家。エマニュエル・トッド氏の友人として通訳を務め、中野剛志氏のよき理解者として、2氏の対談をコーディネート。

本書の要点

  • 要点
    1
    グローバル資本主義によって経済が成長するというのは間違いだ。自由貿易を進め、規制を撤廃したことが、経済の不安定化、格差拡大につながっている。
  • 要点
    2
    グローバル資本主義の失敗が明白であるにもかかわらず、それを支持する風潮があるのは、エリートたちの統治能力が劣化し、思考停止に陥っていることが究極の原因である。
  • 要点
    3
    新興国の台頭はあるが、世界経済の舵取りは、やはり今でも米国、ヨーロッパ、日本で行われている。規制や国際協議を増やし、互いのナショナリズムを尊重することが解決の一歩である。

要約

グローバリズムが世界を滅ぼす(著者陣による議論)

グローバル資本主義の成長神話という嘘
??? / Imasia

世界の主要国は今、一様に経済的、政治的国難に直面している。これらの背景には、アメリカはじめ各国が、あらゆる規制を取り払う新自由主義を取り入れ、経済のグローバル化を進めたことにある。

グローバル資本主義の帰結はEUを見ればわかる。EUはユーロを導入し、完全な自由貿易、経済的国境の撤廃を進めたことで、規制緩和も財政出動も、独自の産業政策を行うことも不可能になってしまった。輸出産業で潤ったドイツ以外の国では、経済、特に製造業などの産業が破壊されつつあり、経済が停滞している。勝者であるはずのドイツでも、国内の格差が広がり、低所得者層が増えている。これがヨーロッパの現状だ。

また、現在の韓国の惨状も、IMF(国際通貨基金)改革をはじめとする新自由主義政策の綻びを示している。アジア通貨危機以降も、雇用の自由化などの規制撤廃が進んだ結果、ふつうの会社、ふつうの働き方、ふつうの所得がなくなってしまった。その状況は、高い失業率・自殺率につながった。経済成長率は大幅に鈍化している。

このように、「新自由主義の理念のもと、グローバル資本主義によって経済が成長する」という神話とは全く逆のことが起きている。

新自由主義によって成長が鈍化するのにはいくつかの理由がある。まず、規制なき自由貿易により、経済が過度に複雑になって不安定化することが挙げられる。また、企業は、短期的な成果を出せという圧力がかかるため、長期的な成長を目標とせず、目先のパイの奪い合いに精を出しているということも理由であろう。

市場は国のルールによって統治されて初めて機能する。ガバナンスの存在と適切な規制は不可欠だ。

グローバリズムは倫理的な問題
julos/ iStock/Thinkstock

グローバル資本主義・新自由主義は、社会格差を広げ、国会の自律性を失わせ、経済成長すらも実現させられない。にもかかわらずグローバリズムを支持するエリート層がいる。彼らには、本当に自由貿易、市場至上主義を信じている者と、特定の組織の利益を図るためにグローバル資本主義を推し進めている者とがいる。

グローバル化がここまで進んだ背景には、彼らエリート層を含めた人たちにニヒリズム(虚無主義)が広がったことがあるのではないか。ニヒリズムが人間の欲望を解き放ち、固有のルールで守られてきた各地の伝統文化を破壊して、欲望そのものを基準にした。その破壊はますます人の精神を空虚にしている。

グローバル資本主義については、経済上の問題だけでなく、「善良な社会のビジョンは何か」という倫理的問題としてもとらえていく必要がある。

エリートの統治能力の劣化

エリートたちは無為無策を新自由主義の「自由放任」という理論で正当化しているように見える。先進国といっても、国や地域の違いはさまざまで、経済や社会問題への対応はそれぞれ違うはずである。しかし、単一の処方箋を機械的に当てはめようとすることがグローバリズムの問題点なのだ。エリートたちの統治能力は著しく劣化していると言えるだろう。

では、そのような情勢下で日本が進むべき方向はどこにあるのか? そもそもアングロサクソン・モデルとは異質な資本主義のモデルであったはずの日本は、アングロ・サクソンの新自由主義に批判的になり、日本が培ってきたものを大切にするべきだというのが1つの結論である。今の日本は世界の未来を決める実験場のようなものだといえる。

【必読ポイント!】全体主義としてのグローバリズム(藤井 聡)

グローバル資本主義発展のメカニズム
photos.com/photos.com/Thinkstock

グローバル資本主義を、藤井氏は「国境の意味を低下させた上で展開する資本主義」と定義する。グローバル資本主義が世界で進行すると次の3点のような現象が起こる。

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要約公開日 2014.08.15
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