著者は、スタンフォード大学の工学部を拠点として、学生たちに起業家精神に関わるプログラムを提供している。純粋な科学者や技術者として学生を社会に送り出すだけでは、不十分だと考えているからだ。
社会に出て活躍するには、どんな職場であっても、人生のどんな局面であっても、起業家精神を発揮し、みずから先頭に立つ術を知っておく必要がある。そのために、起業家精神とはどういうものかを教え、それぞれの役割のなかで起業家精神を発揮するために必要なツールを授けることが目的だ。
このプログラムで学生たちは、「2時間で元手の5ドルを増やす」方法を考えて実践する、「10個のクリップで4時間のあいだにできるだけ多くの価値を生みだす」といった、ユニークで挑戦的な課題に取り組むことになる。
このような起業家のプログラムが有効なのは、学校で適用されるルールと外の世界のあいだに大きなギャップがあるからだ。
学校では、学生を成績で相対評価する。つまり、誰かが勝てば誰かが負ける仕組みになっている。一方で社会に出れば、目標を共有するもの同士がチームを組んで仕事をする。自分が勝てば、周りも勝つ。
教師は、学生に知識を詰め込むのが仕事だと思っている。しかし社会に出れば、自分が自分の教師になって、何を知るべきで情報はどこにあるのか、どうやって吸収するかは自分で決めるしかない。出題範囲が決められず、どこからでも問題が出される試験のようなものだ。
テストにしても、大人数の授業であれば、正しい答えを1つだけ選ぶ選択式が主流だ。だが社会に一歩出れば、どんな問いにも、答え方は何通りもある。そしてその多くは、どこかしら正しいところがあるものである。
問題とは、すなわちチャンスである。それなのに学生たちは、問題は避けるもので、不満のタネになるものだと教えられている。問題をチャンスに変えるには、常識を疑うことが欠かせない。そうやって世の中のギャップを発見すれば、新しいニーズを発掘できる。
著者はある授業で、学生たちに古いサーカスのビデオを見せ、伝統的なサーカスの特徴をすべて挙げてもらったあと、そこで挙げた特徴を逆にしてもらっている。「けたたましい音楽」の替わりに「洗練された音楽」、「ピエロ」に対して「ピエロはいない」といった具合に。次に伝統的なサーカスのなかで、残しておきたいものを選んでもらう。こうしてできあがった新しいサーカスは、まるで「シルク・ドゥ・ソレイユ」風のものになる。そして実際のシルク・ドゥ・ソレイユの公演ビデオを見てもらったあとで、自分たちが行なった変更が実際にどのような効果をもつのか、学生たちに検証してもらう。
この授業を通して著者が伝えたいのは、思い込みを外し、常識を疑うことで、現代のニーズに合った新しい価値は生み出せるということだ。これはサーカスだけでなく、ほかの業界や組織にも簡単に応用できる。
「不可能に思えること」に挑戦するうえで、いちばん邪魔になるのは、周りから「できるわけがない」と決めてかかられることだ。この壁を打ち破るためには、次のエピソードが参考になるだろう。
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