脳は大きく分けて3層から成る。まず、一番深いところにあり、睡眠・覚醒、心臓、呼吸、自律神経や食欲・性欲のような、本能と深く関係した古い脳である「脳幹」。脳幹をとり巻くように存在し、喜怒哀楽のような、感情や安全欲求などと繋がりがある「大脳辺縁系」。そして大脳辺縁系の周りをとり巻いているのが、もっとも新しい脳であり、理性や知性など「考える」ことに関係する「大脳新皮質」だ。
脳は人が進化してきた歴史を反映しており、新しい脳が古い脳で生じた怒りなどの感情を押さえ込む仕組みになっている。これが「理性」と呼ばれるものだ。
ストレスは基本的に古いほうの脳で引き起こされるため、新しい脳でそれにどう対処していくかを考える必要がある。計算したり、客観視したり、別のことに集中したり……新しい脳が何かをして、古い脳から資源を奪うと、ストレスや感情が抑えられる。
寝覚めが悪いのは、“ストレスホルモン”と言われる「コルチゾール」の値が一日で一番高いのが朝だからである。
ケンブリッジ大学のアスケルンドらは、14歳の若者427名を対象に、「朝からストレスを軽減する」方法に関する実験を行った。被験者たちに、目が覚めたときにネガティブな記憶とポジティブな記憶をそれぞれ合図とともに思い出してもらい、1分後にその反応を調べるというものだ。1年間にわたってその追跡調査を行ったところ、ポジティブな記憶を思い出した被験者の多くはコルチゾールが減少し、長期的に見ても自分のことを否定的に捉えることが減っていると判明した。
そもそもこの研究は、うつ病対策を考慮して行われたものだった。コルチゾールはうつ病の天敵であるため、その値が高くなる朝にポジティブな記憶を思い出すだけで、うつ病のリスクを低下させることができたのだ。
しかし、一日に何度も楽しいことを思い出せばいいわけではない。過去の記憶を思い出す頻度が増えると、記憶障害を引き起こしてしまう場合があるからだ。楽しかったエピソードを思い出すのは毎朝1分間程度にとどめておこう。
嫌なことがあったときやストレスが溜まっているときは、ジョギングをしよう。ハーバード大学のバーンスタインとマックナリーの研究では、被験者を、ジョギングをするグループとストレッチをするグループに分け、30分ほどそれらを行ったあとに、悲しい映画を観てもらった。その結果、どちらのグループも映画を観て悲しい気持ちになったが、ジョギングチームのほうがその後のリカバリーが早く、もう一方とは大きな差があった。
東京大学のリューらによる研究では、走るときに頭部に衝撃がかかることで、脳から分泌される物質が活性化されることが判明している。実験では、マウスを1日30分ほど走らせたところ、覚醒、気分、記憶、自律神経調節などと関係しているセロトニンの受容体が活性化されていることがわかった。さらに、1週間ジョギングを続けると、
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