その昔、欧米には政治家のブレーンとして、演説の原稿を用意し、効果的な語り方で大衆の心を動かすこと(大衆扇動)を専門とした「メンタリスト」という存在がいた。彼らメンタリストは、「説得力」と「影響力」を組み合わせて、人々の行動を促す技術を駆使していた。
そうした技術のことを、本書では「超影響力」と呼ぶ。超影響力を学べば、人付き合いが得意か苦手かにかかわらず、仕事や人間関係にポジティブな変化をもたらすことができる。
世界一の投資家ウォーレン・バフェットの言葉に、「みんなが貪欲になっているときこそ恐怖心を抱き、みんなが恐怖心を抱いているときにこそ貪欲であれ」というものがある。たとえばお金の運用を迷っているとき、バフェット本人からこの言葉を教わったら、座右の銘として心に残るだろう。しかし、もし同じことを若手の営業パーソンに言われたとしたら、「何を偉そうに」「ヤバい銘柄でも買わせるつもり?」と反発を覚えるのではないか。
また、職場の先輩から「困っていることがあれば相談してね」と言われたときも、仕事が順調であれば「大丈夫だけど、先輩いい人だな」「おせっかいだな」程度にしか思わないだろうが、切羽詰まっているときに声をかけられたら、すっと胸に響くだろう。
これらの例からわかるのは、「人は、同じ内容でも信用した相手の話に耳を傾ける」ということ(信用)、「人は、同じ内容でも『自分と関係がある』と思った話にしか興味を持たない」ということ(関係性)だ。
超影響力を理解し、使いこなしていくための2つの原則は、「信用」と「関係性」である。聞き手に信用され、相手と深い関係を築ける話し手は信頼される。そして聞き手が属するグループ全体に、影響力を発揮できるようになる。
「信用」を得るには、3つのステップがある。
1つ目のステップは「シュムージング」だ。これは「本題を切り出す前に自分のことをネタにした雑談を挟む」ことを意味する。いきなり本題を切り出しても、相手は耳を傾けてくれない。本題前の雑談で、相手との距離を縮める必要がある。
このとき重要なのは、ただの雑談ではなく、自分のことをネタにすることだ。シュムージングに効果的な話題として、次の5つがある。
(1)お金や健康に関する心配事:聞き手は「プライベートな話を打ち明けられた」と感じると、「返報性の原理」が働き、「自分も心配事を話してみよう」と思うようになる。
(2)人生で幸福を感じること、自分の楽しいこと:聞き手は楽しく聞くことができ、自分の幸せについても話してくれるようになるだろう。
(3)自分の弱点やマイナス面:悩みや弱さを打ち明けられるということは、客観的に自分を把握できているということであり、聞き手からは「この人はしっかりしている」と好意的に受け止めてもらえるだろう。
(4)自分の趣味や興味:興味を持ったきっかけなどを付け加えると、相手も会話に加わりやすい。
(5)恥ずかしい思いをしたり罪悪感を覚えたりした体験:そこから何を学んだかを含めて話すことで、「この人は失敗を乗り越えた人だ」という好印象を聞き手に与えることができる。
自分の行動を後押ししてくれる人を、人は信用するものだ。そこで有効なのが、
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