浅草かっぱ橋商店街

リアル店舗の奇蹟

未読
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リアル店舗の奇蹟
出版社
プレジデント社

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出版日
2021年04月14日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

「あなたと働きたくないから辞めるんですよ」。経営者にとってこれほど酷な言葉はないだろう。これは料理道具の老舗、飯田屋の6代目である著者が、実際にある従業員からかけられた言葉だ。しかもそのとき、半数以上の従業員が一斉に退職を申し出た。売上が下がり、先の見通せない状態で見切りをつけられたのなら話はわかる。しかしこの大量辞職は、増収増益で、飯田屋が「料理道具の聖地」と呼ばれるようになったころに起きた。なぜ従業員たちは働く意欲を失ったのか。

そのころ著者は、この店を「専門知識を持つ店員のいる料理道具の店」として立て直すため、フライパンのネタだけで100記事ものブログ記事を投稿し、メディアの取材を受けるほどになっていた。猛烈に努力を重ねていく中で、いつしか自分の期待どおり働かない社員を責め立てていたという。100年以上続く、母親から受け継いだこの店を自分の代で盛り返したいという気持ちも強かったのだろう。

しかしここまでなら「社長あるある」だ。プロジェクトメンバーに同じようなことをしたことがあるビジネスパーソンの方もいるかもしれない。本書の読みどころは、著者が「コミュニケーションスキルを身につける」といった小手先の対策ではなく、経営に対する考え方を抜本的に改める部分にある。

心から従業員とお客様を想う著者はいま、ノルマなし、売上目標なし、飛び込み営業なし、経営目標なしという非常識な経営スタイルを貫いている。なぜこれで商売が成り立ち、業績が伸ばせるのか。本書にはその秘密が詰まっている。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

飯田結太(いいだ ゆうた)
株式会社飯田代表取締役社長。大正元年(1912年)に東京・かっぱ橋で創業の老舗料理道具専門店「飯田屋」6代目。料理道具をこよなく愛する料理道具の申し子。TBS「マツコの知らない世界」やNHK「あさイチ」、日本テレビ「ヒルナンデス!」など多数のメディアで道具を伝える料理道具の伝道師としても活躍。自身が仕入れを行う道具は必ず前もって使ってみるという絶対的なポリシーを持ち、日々世界中の料理人を喜ばせるために活動している。監修書に『人生が変わる料理道具』(枻出版社)。2018年、東京商工会議所「第16回 勇気ある経営大賞」優秀賞受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    飯田屋は、ノルマなし、売上目標なし、飛び込み営業なし、経営目標なしながら経営難から回復し、業績を大きく伸ばした。
  • 要点
    2
    飯田屋は、ネット通販にお客様を奪われるという心配はない。目の前のお客様に寄り添える人間味のある接客という、ネット通販には決して真似できない強みがあるからだ。
  • 要点
    3
    売上目標の設定をやめ、目の前のお客様を喜ばせることに集中すると、売上も客単価も買上点数もリピート客も増えた。

要約

経営者失格、後継者落第

記憶に残る幕の内弁当はない

東京の浅草と上野の真ん中あたりに、世界最大級の飲食店用品問屋街、「かっぱ橋商店街」がある。著者が経営する「飯田屋」はこの街で100年以上、料理道具の専門店を営んでいる。店舗はコンビニをひと回り小さくしたほどの大きさだ。食器、白衣、看板など、飲食店で使われるさまざまな道具を取り扱っている。

著者は2009年、母が経営していた飯田屋に入社することを決めた。このころ、たくさんの商品を取り扱っているのに、店頭で聞かれるのは「欲しいものがない」「ここは何屋なの?」「何を買ったらいいのかわかんないよ!」という声ばかりだった。たくさんの商品が揃っていてもお客様は何も買ってくれず、売上の減少が止まらない。長い歴史の中でさまざまなお客様の要望にこたえてきた結果、品ぞろえが無秩序になっていたのだ。あまりにマニアックな商品の取り扱いをやめようとしても、先輩社員から「誰々さんが買いに来るから、必ず在庫を持っておくように」と注意されてしまう。AKB48のプロデューサーとして知られる秋元康氏の言葉を借りれば「記憶に残る幕の内弁当はない」という状態だった。つまり、「これは!」という特長がなかったのである。

2人の神様との出会い
runin/gettyimages

売上を回復させるため、飯田屋は安売りに手を出し、どこよりも安い店をめざした。しかし売上は変わらず、得たのは、質が下がったというクレームだけだった。

そんなとき、2人の「神様」がお客様として来店する。一人は軟らかい食感の大根おろしを求める料理人、もう一人はアレルギーの子どものため、ニッケルが含まれていない製菓道具を探しているスーツ姿の男性だった。著者は料理人のために奔走し、最高のおろし金を見つけたが、スーツ姿の男性にはベストな商品を提案することができなかった。

2人の神様が気づかせてくれたのは、「一人のお客様が求める、たった一つの最高の商品を提案できれば、値引きなど不要で、笑顔あふれる商売ができるはずだ」ということだ。そう考えると、飯田屋には強みがあった。たった一個から商品を仕入れることができ、前日17時までに注文すれば開店前には商品が届くことだ。これは近隣のお店でも同じだが、徹底的な品揃えと商品知識でお客様を満足させようとするなら、このなんでもない強みがまたとない宝に変わる。

フライパンのネタだけで100記事

あるとき、仕入れた道具はすべて、とことん試すと決めた。実際にやってみると、商品のパッケージやクチコミからはわからない個性が見えてくる。その気づきをブログで発信することにした。

最初にテーマとして選んだのは、フライパンだ。選び方やフッ素加工のフライパンを長持ちさせる秘訣、いろいろなフライパンを徹底比較する記事などを公開していった。

フライパンのネタだけで100記事ほど発信したころ、奇蹟が起きる。

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要約公開日 2021.07.28
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