東京の大手広告会社に勤務する常磐サオリは、クライアントへの謝罪のために大阪に来ていた。仕事の段取りがうまくいかず、キャンペーンのウェブサイトが納期に間に合わなかったのだ。
ノリがよく明るいサオリだが、このような場ではしゅんとすることしかできない。「ちゃんと“考えて”仕事をしてくれていましたか? 少し考えれば、こんなことは起こるはずがないと私は思いますが」というクライアントの言葉が胸に突き刺さる。会社の同僚や上司からも、ずっと言われ続けていることだ。
謝罪を終えたサオリは、新大阪駅から東京行きの「のぞみ」に乗り込み、自分の座席を探す。隣に座っている若い男性は、数学か物理のものと思われる学術書を熱心に読んでいる。
サオリと隣の男性、浅野優斗は、ふとしたことがきっかけで言葉を交わすようになる。優斗は数学専攻の大学院生で、研究発表のために東京から大阪に来ていたらしい。
隣にいるのは今日たまたま会った学生で、もう二度と会うことはないだろう。サオリは優斗に、恥ずかしくて今さら誰にも聞けない、「“考える”って、どうすればできるの?」という質問をした。
思いがけない質問に戸惑う優斗に、サオリは大阪での出来事を話した。サオリの話を聞いた優斗は、「サオリさん、今から1つお題を出してもいいですか?」「“数字”について何でもいいので、1分間考えてください」と言う。
サオリは面食らいながらも、言われた通りに頭を働かせようとする。しかし、“数字”について考えろと言われても、何をどう考えていいのかわからない。会社のことだろうか、そもそも数字とは何か、といったことだろうか。
続いて優斗は、「サオリさんの“好きな数字”はいくつか、1分間で考えてください」というお題を出した。まったく意図が読めないものの、サオリは自分の好きな数字について考えてみる。
この2問を通して優斗が伝えたかったのは、何かを考えるときは、具体的なテーマを設定することからスタートするのがよいということだ。すると、同時にゴールも決まる。「割り算について考えろ」と言われても考えるフリしかできないが、「割り算の便利なときはいつか?」であればちゃんと考えられるし、答えも導き出せるだろう。
続いて優斗は、ゴールから逆算して考えることや論理的に考えることについて、サオリに話していく。サオリの次の質問は、論理的に考えるというテーマで、ほかに優斗が自然にしていることだ。優斗の回答は、「帰納的に考えること」であった。
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