編集者にとっても作家にとっても、あるいはすべてのビジネスにおいても、結果を出すというのは重要なことだ。作品が思うように売れなくても、「作家も編集者も営業も頑張ったのに、残念だったね。さあ、次の作品で頑張ろう」という場合がほとんどだ。ヒット作はいつも「予想外」のものばかり。ヒット作を狙ってつくることは、不可能なのだろうか。
著者は「仮説・検証」の作業を意識して繰り返すことで、ある程度「ヒット作を生み出す」ことができるようになったという。
念頭に置いているのは、「仮説を先に立てる」ということだ。当たり前のことだ、と思うかもしれない。しかし実際にはそうではない。ほとんどの場合、「情報を先に見て」、それから仮説を立ててしまうからだ。
経営をしていると、決算の数字を見ながら、来期の売上のことを考えるようになる。しかし決算という過去の情報をもとに来期をイメージして仮説を立てても、今期の延長線上にあるアイディアしか思いつかない。そうなると、たとえベンチャーであっても「前例主義」に陥ってしまう。
では、どうすればいいのか? 仮説を立てるときには、誰でも得られる過去の数字のデータではなく、「日常生活の中で、なんとなく集まってくる情報」そして「自分の中にある価値観」を大切にすべきだ。
そうして立てた仮説を補強・修正するために、情報を集めるという順番にすることが重要だ。「情報→仮説→実行→検証」ではなく「仮説→情報→仮説の再構築→実行→検証」という順番で思考することで、現状に風穴を開けることができる。
「仮説を立てよう」と言われても、これまでやったことがない人は、なにをどうすればいいのかわからないかもしれない。そんなときは、「仮説を立てる」を、「定義しようと試みる」という言葉に置き換えて考えてみよう。
たとえば、「売れる」とはどういうことだろうか。単にたくさん売れるのか、作家の知名度の向上か、海外での評価か、何年経っても残る作品を生むことか。また「売れている」作品はいったいなぜ売れているのだろうか。ひとくちに「売れる」といっても、簡単に定義することはできない。いったいどういう作品が「売れる」作品なのか、自分なりの答えを出そうとすることは、「定義」を考えることに他ならない。こうした定義を問い直す訓練を日常的に積むことで、自分なりの仮説を生むことができるようになる。
マンガとしても、「いい作品」は「新しい定義」を生み出している。たとえば『ドラゴン桜』は教育を再定義し、受験勉強をすることの意義を捉え直した。『働きマン』は、プライベートを充実させてそこそこ働く、という世間の空気に対して、「必死にボロボロになるまで働く人はかっこいい」という働き方の再定義を行った。『宇宙兄弟』は、宝塚やジャニーズ、AKB48などをヒントに、「真の友情」や「濃密な絆」をテーマにしたマンガにすればヒットするだろうという仮説を立てた。
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