著者はあるとき、知り合いの営業コンサルタントから「昔のヒーロー」という言葉を教えてもらった。「昔はトップセールスとして活躍していたが、今は鳴かず飛ばずの営業担当者」を意味する言葉だ。
「昔のヒーロー」が失速した原因は、過去の営業手法に固執していることにある。一方、トップセールスであり続けている人は、顧客や競争相手、社会の変化に応じて新たなスタイルを取り入れている。
常にプロフェッショナルであり続けるためには、自分の型やスタイルを確立する必要がある。だが、それだけでは十分ではない。必要に応じて、既に確立した型やスタイルを壊して新たな型やスタイルへと作り直し、新しい知識やスキルを取り込まなければならないのだ。この行為を「アンラーニング」(学びほぐし)といい、硬直した知識・スキルをほぐして新しく組み立て直すことを意味する。
人は経験からの学びによって成長するといわれるが、経験から学んだことにしがみついてしまってはならない。成功したからといってノウハウを固定化するのではなく、「なぜ成功できたのか」を理解し、自身のノウハウを改善するべきだ。そうすれば、別の状況でも再現できる。経験から学び続けるためには、アンラーニングが不可欠だ。
アンラーニングの概念は組織レベルの研究から生まれたが、最近では、チームレベル、個人レベルの研究も進んでいる。アリ・アグランらは、チーム・アンラーニングを「チームにおける信念(技術、市場、顧客ニーズについての信念)とルーティン(仕事の手続き、情報共有の仕組み、意思決定の仕組みなど)の変革」と定義する。そのうえで、新製品開発チームを調査したところ、市場や技術の環境変化が速く、危機感や不安感を感じているチームほど、アンラーニングが進み、高い業績を上げることがわかった。
組織やチームのアンラーニングのためには、個人のアンラーニングが欠かせない。本書では、個人のアンラーニングを「個人が、自身の知識やスキルを意図的に棄却しながら、新しい知識・スキルを取り入れるプロセス」と定義する。
デイビット・コルブによれば、人は4つのステップで学習する。(1)具体的な経験をし、(2)その内容を内省し(振り返り)、(3)そこから何らかの教訓を引き出し、(4)その教訓を次の状況に応用する、といった流れである。
たとえば、ある営業担当者が大きな案件を受注したとしよう。これはステップ(1)の「経験」だ。この担当者は、なぜ受注できたのかを振り返り(内省)、「コストダウンを強調したこと」が成功要因であることがわかり(教訓)、そうした営業アプローチを別の顧客にも適用したとしたら(応用)、コルブのモデルに沿って経験から学んでいるといえる。
このサイクルにおいて、アンラーニングと関係が深いのは(3)の教訓のステップだ。状況の変化に応じて古い教訓を捨て、新しい教訓が得られれば、適切なアンラーニングが行われているといえる。
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