駆け出しマネジャーがまず理解しておくべきことは、マネジャーに求められる行動と実務担当者に求められる行動は異なるということだ。実務担当者は、自分のタスクを追い、自分で動く必要がある。一方、マネジャーになると、自ら動かないことがむしろ重要となり、エキスパートとしての自分のあり方を一部捨て去ることが求められる。この意識と役割の転換こそが、マネジャーの最初にして最大の課題であると考えてよい。
マネジャーの仕事の本質は「他者を通じて物事を成し遂げること」である。マネジメントの本質とは「自分で為すこと」ではなく「他者によって物事が成し遂げられる状態をつくること」だと理解してほしい。
実務担当者からマネジャーに生まれ変わるには、移行期間が必要だ。この期間には、過去に培ったものを捨て去らなければならなかったり、新しいことを学ばなければならなかったりする。
本書では、実務担当者がマネジャーになってゆくプロセスを「マネジャーへのラーニング・スパイラル」と呼ぶ。このプロセスの第一段階は、マネジャーになる前に、これから起こる現実を知ること(リアリティ・プレビュー)だ。実務担当者からマネジャーへと円滑に移行するために、「マネジャーになった後にどのような出来事が起こるか」「マネジャーをめぐる外部環境はどのような状況になっているか」を正確に知っておく。
第二に取り組むべきは、マネジャーになった後、現実を知り、受容すること(リアリティ・アクセプト)だ。リアリティ・プレビューでどんなにシミュレーションし、頭で理解していたとしても、実際にマネジャーとして働き出すと想定外・予想外の出来事が起こるものだ。まずは自分の置かれている状況を正確に知り、いったん受容することから、効果的なマネジメントが生まれる。
第三段階は、マネジャーとしてさまざまな出来事から学び、自らの行動を振り返って内省すること(リフレクション)だ。続いて第四段階は、リフレクションによって自分なりのノウハウややり方を蓄え、次のアクションをつくっていくこと(アクション・テイキング)である。
もちろん、このプロセスを一通り経験したからといって、すぐに完璧なマネジャーになれるわけではない。リフレクションとアクション・テイキングを繰り返し、螺旋を描きながら、駆け出しマネジャーは成長していく。
駆け出しマネジャーには、いくつかの共通する挑戦課題がある。東京大学中原研究室と公益財団法人日本生産性本部の調査によると、経験の浅いマネジャーが直面する挑戦課題は次の7つである。
部下育成
目標咀嚼
政治交渉
多様な人材活用
意思決定
マインド維持
プレマネバランス
要約ではこのうち、3つの課題について取り上げる。
部下の成長度はチームの生産性を左右する。チームが成果を出すために、部下育成は不可欠だ。
とはいえ、育成は難しい。自分が若い頃に出会った上司のやり方をそのまま真似してチームに悪影響を与えてしまっていたり、部下に思い切ったことが言えず、自分ひとりで仕事を抱えて疲弊してしまったりする人もいる。
部下育成において大切なことは、リスクをとって部下に仕事を任せ、適切なタイミングでフィードバックすることだ。部下の能力より少し難易度の高い仕事を任せ、本人の振り返りを促しながら、その能力が向上するように導いていく。これが育成の原理にのっとった部下の育て方である。
「目標咀嚼」とは、会社が掲げた目標を部下たちにかみ砕いて説明し、部下たちの納得を得ることと、会社の戦略を部門の仕事に落とし込み、部下たちに割り振っていくことを指す。
この課題は「部下育成」と密接に絡み合っている。
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