営業やマーケティングにおいて、見込み顧客と既存顧客に対しては別のアプローチをしなくてはならない。同じような接し方をしていると、自社の強みを損ねることになる。
それに深くかかわってくるのが「現状維持バイアス」だ。これは行動経済学などですでに確立された概念であり、「現状にとどまろう」とする人の心理的な癖を説明する。
たとえば、見込み顧客が何かの営業を受けた際、客側は「なぜ現状を変える必要があるのか」といった疑問を抱く。一方、既存顧客は「どうしてあなたと取引を続けるべきなのか」「なぜ取引額を増やすのか」といった現状維持バイアスが働く。
新規客と既存客とでは当然、違うことを考えている。そのため、マーケターやセールスは、見込み客に対しては現状維持バイアスを打ち砕き、既存顧客に対しては現状維持バイアスを強化する必要があるのだ。
現状維持バイアスは「安定を優先する傾向」「変化に伴うコストへの懸念」「選択の難しさ」「後悔や非難への恐れ」の4つの原因によって引き起こされる。これを逆手に取ることで、顧客の属性に合わせた適切なメッセージを伝えられる。
たとえば、新規顧客に対しては、相手が気付いていない問題や課題、機会損失など見落とされているニーズを伝える。そうすることで、心地いいと感じていた現状に対して疑問が生じるはずだ。
顧客が切り替えコストを懸念する場合は、現状維持にもコストがかかることを伝えるとよい。人は利益を得るよりも損失を被るほうを嫌う傾向にあるため、現状のやり方では限界があることを伝えるのだ。
また、見込み客がすでに利用しているサービスやソリューションとは対照的な選択肢を、提示することも重要である。あまり違いがないのであれば、相手は「わざわざ切り替えるほどでもない」と感じるだろう。現状のやり方では満たすことのできない見落とされたニーズを、あなたが提案するソリューションで解決できると明示してあげるのだ。
他方、既存顧客に対しては、現状維持バイアスの4つの要因を強化するとよい。
既存顧客へのアプローチでは、まずあなたのソリューションを購入・取り扱いし始めた経緯やそれに伴うプロセスを顧客自身に思い出させる(安定を優先する傾向を強化)。これにより相手は、不満のないままの状態を維持したいという思いを強めてくれるだろう。
そして、これまでにかかったコストは業務改善効果などにより回収できている、またはサンクコストになっていて予算に組み込まれているなどと伝えよう(変化に伴うコストを強調)。
さらに、市場にある他のソリューションは、自社のものに比べて変わりがないこと、これまで顧客に対して積極的に提案してきたことを話すのだ(選択の難しさの強化)。
そして最後にもう一度、ソリューションの導入に際してこれまでどれくらいの労力をかけたかを相手に思い出してもらおう(後悔や非難への恐れの強化)。
これらの一連のメッセージにより、顧客は「これまでの意思決定や選択に間違いはない」と、自身を肯定するはずだ。
既存顧客にとって、あなたはレギュラーだ。信頼、経験値、実績などもすでにあるため、他社よりも断然有利な立場にあるといえるだろう。
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