新型コロナウイルスの世界的流行は、大きな社会的不安や葛藤を与えてきた。消費者も大きな心の動揺を抱えている。その不安は、人間の行動にどんな影響を及ぼすのだろうか。
シェルドン・ソロモンらの社会心理学者グループの研究によれば、死を想起させる要素にさらされることで「死の顕現化」(命のはかなさを悟った状態)が起きると、人の態度や行動が変わったという。見た目や考え方が近い者同士で一緒にいたいと考え、大衆迎合型でカリスマ性のあるリーダーを好むようになった。自然界に対してあまり価値を置かなくなり、自分たちの経済的利益のために天然資源を利用する気持ちが高まった。
人は人生の意味を見失いそうになると、安全・安心を取り戻そうとする。そのための頼みの綱がカネだとソロモンは指摘する。貨幣は死をものともしない盲目的崇拝の対象になり得るのだ。
新型コロナウイルスのパンデミックでも、ハンドサニタイザー(消毒液)などの買い占め、家の修繕・リフォーム費用の増加、家庭料理やパン作りの流行がみられた。これらは、安心感、快適感を確保する方法だろう。ボードゲーム人気やネットフリックスの加入契約、ガーデニング用品などの売上も大幅に増加している。これらは、脅威から目を背けるためのものだ。
コロナ禍では、しばらくは景気の懸念も消えそうにない。消費者は長期にわたり安全と気晴らしを求め続けるだろう。空気を読み、適切なメッセージを作り込むことは、どんな分野のマーケティング担当者にも必要である。
1800年代中期~後期に、工業化の進展と集中化によって大都市の人口が大きく増加し始めた。都市は政治、文化、経済活動の中心地になっていった。
しかし、新型コロナウイルスを起爆剤として、生活や仕事、教育、娯楽、そして買い物のあり方が根本から変わろうとしている。
過去に、世の中が変わるという予想は何度もされてきたが、実際には変化してこなかった。よく比較される1918年のスペインかぜさえ、いまと人口密度の違いがあったとはいえ、都市封鎖もなければ、レストラン・店舗の営業、公共交通機関の利用が禁止されることもなかった。
ただ、現在には多くの選択肢がある。テクノロジーのおかげで時間的、空間的な自由を享受できるようになり、いつでもどこからでも何でもできる時代である。
すでに産業や労働の集中化、仕事の集権化、教育の体系化、物流システムなどに崩壊の兆しがみられる。そうした構造に組み込まれている小売業界も無関係ではいられない。店舗の立地、デザイン、業態、営業時間、収益モデルなどが、デジタル時代に崩れ去ろうとしているのだ。生き残るためには、パンデミックに耐える不屈の精神と先見性が必要である。
新型コロナウイルス感染症という突然変異によって新しい種も誕生した。食物連鎖の頂点に立つ捕食者たる怪物企業だ。小売りの世界では、アマゾン、アリババ、京東商城(JDドットコム)、ウォルマートの4社が驚くほどの成長を見せた。
パンデミックに突入してからのオンラインでの商品検索のうち、求めているものが明確な場合は、約80%のユーザーがアマゾンで品定めを始めるという。さらに、アマゾンプライムでは1億5000万人以上が有料会員を抱えている。客寄せだけでなく、迅速な配送、映像・音楽のストリーミング配信などの特典や付加価値がある。
2016年にアリババのジャック・マー会長が「ニューリテール」を提唱している。このニューリテールには業態や体験、プラットフォームが一体化されたエコシステムがあり、そこを生活域にする顧客がいる。ショッピングからエンターテインメント、決済まで消費者が利用する体験をすべて包み込んだ安全圏だ。企業側はそこから顧客の重要な情報を取り込むことができる。作家のマイケル・ザッコアによると、アリババには様々な「生活域」が用意されており世界最強だという。顧客に関するリアルタイムデータを拾うポイントが50種類以上ある。「熱中できるほぼ密閉空間のような場だからこそ、顧客は、生活の基盤として依存を深める」のだ。
怪物企業が「理屈で選ばれる定番」であれば、それ以外の小売業者は「感性で選ばれる定番」になるべきだ。怪物企業に市場の中心部を奪われてしまったのであれば、あらゆるブランドは、市場のポジショニングを再考し、顧客が膨大な数の選択肢から範囲を絞り込めるように支援することが必要になる。
パンデミック後の時代に生き残りをかけるブランドにとって、顧客が迷うことなくあなたのブランド名を挙げてくれるためには、顧客の問いにどう答えられるかを見極めなくてはならない。あなたのブランドが明快な答えになれれば、特定のカテゴリーで差別化できるだけでなく、大きな売り上げと利幅を確保する収益力も期待できる。答えとなるリテールタイプ、ブランド像は消費者の問いと対応して次の10種類にまとめられるだろう。
3,400冊以上の要約が楽しめる