SFプロトタイピングとは「サイエンス・フィクション的な発想をもとに、まだ実現していないビジョンの試作品=プロトタイプを作ることで、他者と未来像を議論・共有するためのメソッド」だ。
作られるプロトタイプには製品、街、社会などを表す「ガジェット」や、特定の意志や感情を持った「キャラクター」視点の考察、そうしたキャラクターたちが繰り広げるストーリーである「プロット」のシミュレーションが含まれる。
SFプロトタイピングは、起こる出来事から逆算して今を考えるという「バックキャスティング」的な方法である。
バックキャスティングの対義語「フォアキャスティング」による未来予測は、現在の科学技術などから演繹して、実現可能性の高い未来を想定する。しかし、コロナ禍を予想できなかったように、この手法では予想の斜め上の未来は想定しにくい。
自ら予想外の未来を想定することは、大きな社会変化が起きたときに生き抜くことにつながる。ビジネスパーソンにとっては、事業や製品を新たに創り出す局面で、SFプロトタイピングの発想力は武器となるだろう。
SFと聞いて、なんとなく未来っぽいガジェットを思い浮かべる人は多いかもしれない。SFとは本来「スペキュラティブ」、すなわち「思弁的」なものであり、現実から外れた未知や価値を思い描くものだ。例えば空飛ぶクルマを描く場合、その機能だけではなく、それが社会・生活・倫理に与える影響と変容した世界を思弁する、つまり脳内で論理的に考えることが求められる。
SFが生み出すこの発想力を積極的に利用しようとする試みがSFプロトタイピングである。インテルに所属する未来学者、ブライアン・デイビッド・ジョンソンが2011年に著書でこの概念を紹介して以降、類似の取り組みがSFプロトタイピングと呼ばれるようになった。
とはいえSFプロトタイピングというジャンルはこれから開拓されていく段階にあるため、一つの確立した方法論はまだない。さまざまなプロジェクトで生まれる試行錯誤を一つにまとめるのが、本書の役割である。
三菱総合研究所シニアプロデューサーの藤本敦也氏は、SFプロトタイピングの効用を、形式の似た他の手法と比較する。積み上げ型で考える手法のマクロトレンド分析やシナリオ・プランニングは、確度は高い半面、面白い発想が出にくい。
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