本書では、中国のスタートアップ企業について理解するために、3つの時代に区切って整理し、その成長プロセスに注目している。
第1世代は、1994年代以降、インターネット革命が起こった世代である。具体的には、テンセントやアリババ。自ら先頭に立ってさまざまなイノベーションを引き起こすと同時に、後に続くスタートアップを支援する役割を果たしている。
第2世代は、2010年以降、スマホやクラウドサービスが登場した世代だ。具体的には、バイトダンス、メイトゥアン、シャオミ。先代たちが築き上げたインフラを活用し、それを補うようなサービスで成長した。
第3世代は、2015年以降、ビッグデータと決済インフラが整備された世代だ。具体的には、快看漫画、新氧、VIPKID、ピンドゥオドゥオ。規模は第1世代、第2世代に及ばないものの、彼らを凌駕するスピードで成長している。
新しいビジネスは、ある世代のサービスが次の世代の前提となって生まれる。この好循環はそれぞれの層の企業がそれぞれの役割を果たすことによって生まれ、3つの層の企業が有機的に結びつくことで急成長の「方程式」が完成するのだ。
本書では、各世代について、複数の企業の事例が解説される。要約では、第3世代における「快看漫画」の事例を取り上げる。
「快看漫画」は、後発ながら、中国で最も人気のある漫画アプリだ。「快看漫画」が成功できた理由を、著者は「好循環の仕組み」を築くことができたからだと分析する。こうした好循環をビジュアルで描き出すツールに、システムシンキングがある。
システムシンキングとは、ものごとを要素に分解して理解するのではなく、全体の関係性として理解するための考え方だ。多くの場合、成功も失敗も、複数の要因が組み合わさってもたらされる。システムシンキングでは、そうした要素と要素の関係性を解き明かす。
好循環をビジュアルに描き出すことができれば、投資家にアピールすることもできる。実際、アマゾン・ドット・コムを創業したジェフ・ベゾス氏は、アマゾンのビジネスモデルの好循環を描き出して資金集めを行った。その図には、取引量を拡大させることでボリュームディスカウントと品揃えの充実の双方が実現し、それがさらなる成長へとつながる様子が示されている。
ベゾス氏の図の中心には、大きな円で「成長」と書かれている。これは、バリュードライバーにあたる。バリュードライバーとは、企業価値を生み出す鍵となるものであり、企業価値の源泉だ。たとえ赤字が続いても投資を続けてもらうために、ベゾス氏は、企業価値を生み出す「成長」を中心に据えたのだと考えられる。
本書では、「快看漫画」が好循環を生み出した流れをシステムシンキングによって読み解いている。
「快看漫画」の創業者は陳安妮(チェン・アンニ)氏だ。彼女は、2014年12月にアプリをリリースしてからわずか3年でユーザー数を1億3000万人、DAU(デイリーアクティブユーザー)を約1000万人にまで伸ばした。2019年7月にはユーザー数が2億人を突破し、中国で最も人気のある漫画アプリとなっている。
「快看漫画」の特徴は、紙漫画のページをそのままデジタル化するのではなく、コマを切り出し、スマホの画面の横幅に合わせて表示している点だ。加えて、読者が縦スクロールして読めるようにコマ送りを構成し、高画質のフルカラーで提供している。
さらに特筆すべきは、「快看漫画」に掲載されている作品の数がきわめて少ないことである。具体的には、中国国内の最大のライバルである他のアプリの10分の1ほどの数だ。作品数は少ないものの、メガヒット作品を取り揃えてユーザーを呼び込むことに成功している。
「快看漫画」が急成長を遂げたのは、「好循環の仕組み」を築くことができたからだ。スマホに最適化されたアプリをSNSで拡散させ、利用者を増やしてビッグデータを集める。そしてそれを作品づくりに生かし、閲覧履歴から最適なレコメンドを提供したからこそ、大きく成長することができたのだ。
「快看漫画」の誕生から現在に至る事業展開のプロセスは、大きく4つに分けられる。
1つ目は、スマホ最適化によって投資を受けるステージだ。それまで漫画は、紙媒体で読んでもらうことを念頭に制作されてきた。しかし「快看漫画」は、スマホに合わせてコンテンツを作った点で特徴的だ。
それまでの漫画アプリは、スマホで読みやすい形式とは言えなかった。そこで陳氏は、スマホに適した形で漫画をユーザーに届けると決めた。
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