世界最速ビジネスモデル

中国スタートアップ図鑑
未読
世界最速ビジネスモデル
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世界最速ビジネスモデル
出版社
出版日
2021年05月17日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は、中国のスタートアップ企業の成長のロジックを解説する本だ。本書の特徴は以下の3点である。

1つ目は、「システムシンキング」と「ピクト図解」で中国スタートアップの急成長のロジックを解明し、一目でわかるように図示したことだ。「システムシンキング」とは、その企業の企業価値を生み出す源泉である「バリュードライバー」を中心に据え、それぞれの要素をループ図で図示したものだ。これにより、中国スタートアップがどのように好循環を生み出し、成長を遂げたのかが直感的に理解できる。加えて、ピクトグラムや矢印などでビジネスモデルを図解しているため、ヒト・モノ・カネや時間の流れを追いやすい。

2つ目は、中国スタートアップ企業を3つの世代に分け、前の世代のイノベーションを次の世代がどのように利用してビジネスモデルを構築したのかが説明されていることだ。前の世代が築いたインフラを上手に利用しているからこそ、中国スタートアップは少ない資金でも急成長できたのだ。

3つ目は、急成長した中国スタートアップの共通点がわかることだ。これはそのまま、日本企業にも応用できるだろう。

要約では漫画アプリ「快看漫画」のビジネスモデルを取り上げたが、本書では9社のビジネスモデルが丁寧に解説されている。ぜひすべての事例を熟読していただければと思う。

ライター画像
中崎倫子

著者

井上達彦(いのうえ たつひこ)
早稲田大学 商学学術院 教授
1992年横浜国立大学経営学部卒業。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授、早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て、2008年より現職。2003年経営情報学会論文賞受賞。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センターインキュベーション推進室長などを歴任。専門はビジネスモデルと事業創造。著書に『模倣の経営学』『模倣の経営学 実践プログラム版』『ブラックスワンの経営学』(日経BP)、『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)、『キャリアで語る経営組織』(共著、有斐閣)などがある。

鄭雅方(てい がほう)
早稲田大学 商学学術院 助手
2009年台湾台北市立大学音楽学部卒業。台湾、中国で勤務の後、日本へ留学。2016年早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。在学中に中国進出コンサルティング会社やスタートアップでアクションリサーチを行い、中国のIT・スタートアップに関するメディアの立ち上げに携わる。2019年より現職。中国のスタートアップを中心に研究。

本書の要点

  • 要点
    1
    「快看漫画」の事業展開のプロセスは、大きく4つに分けられる。「スマホ最適化によって投資を受けるステージ」「ビッグデータを活用して利用者を拡大するステージ」「漫画家を支援してエコシステムを創出するステージ」「漫画コンテンツの2次利用を通じて将来を切り開くステージ」である。
  • 要点
    2
    「快看漫画」は、ビッグデータの使い方をネットフリックスから学んで「制作とレコメンドの最適化」を行った。その結果「コンテンツの質」が上がり、ますますたくさんの「利用者」を呼び込むことができ、コンテンツ収入が伸び、ビッグデータの質と量が向上した。

要約

急成長する中国スタートアップ

急成長の「方程式」

本書では、中国のスタートアップ企業について理解するために、3つの時代に区切って整理し、その成長プロセスに注目している。

第1世代は、1994年代以降、インターネット革命が起こった世代である。具体的には、テンセントやアリババ。自ら先頭に立ってさまざまなイノベーションを引き起こすと同時に、後に続くスタートアップを支援する役割を果たしている。

第2世代は、2010年以降、スマホやクラウドサービスが登場した世代だ。具体的には、バイトダンス、メイトゥアン、シャオミ。先代たちが築き上げたインフラを活用し、それを補うようなサービスで成長した。

第3世代は、2015年以降、ビッグデータと決済インフラが整備された世代だ。具体的には、快看漫画、新氧、VIPKID、ピンドゥオドゥオ。規模は第1世代、第2世代に及ばないものの、彼らを凌駕するスピードで成長している。

新しいビジネスは、ある世代のサービスが次の世代の前提となって生まれる。この好循環はそれぞれの層の企業がそれぞれの役割を果たすことによって生まれ、3つの層の企業が有機的に結びつくことで急成長の「方程式」が完成するのだ。

本書では、各世代について、複数の企業の事例が解説される。要約では、第3世代における「快看漫画」の事例を取り上げる。

好循環がわかる「システムシンキング」
日経BP 提供

「快看漫画」は、後発ながら、中国で最も人気のある漫画アプリだ。「快看漫画」が成功できた理由を、著者は「好循環の仕組み」を築くことができたからだと分析する。こうした好循環をビジュアルで描き出すツールに、システムシンキングがある。

システムシンキングとは、ものごとを要素に分解して理解するのではなく、全体の関係性として理解するための考え方だ。多くの場合、成功も失敗も、複数の要因が組み合わさってもたらされる。システムシンキングでは、そうした要素と要素の関係性を解き明かす。

好循環をビジュアルに描き出すことができれば、投資家にアピールすることもできる。実際、アマゾン・ドット・コムを創業したジェフ・ベゾス氏は、アマゾンのビジネスモデルの好循環を描き出して資金集めを行った。その図には、取引量を拡大させることでボリュームディスカウントと品揃えの充実の双方が実現し、それがさらなる成長へとつながる様子が示されている。

ベゾス氏の図の中心には、大きな円で「成長」と書かれている。これは、バリュードライバーにあたる。バリュードライバーとは、企業価値を生み出す鍵となるものであり、企業価値の源泉だ。たとえ赤字が続いても投資を続けてもらうために、ベゾス氏は、企業価値を生み出す「成長」を中心に据えたのだと考えられる。

本書では、「快看漫画」が好循環を生み出した流れをシステムシンキングによって読み解いている。

【必読ポイント!】第3世代:「快看漫画」の事例

人気漫画アプリ「快看漫画」

「快看漫画」の創業者は陳安妮(チェン・アンニ)氏だ。彼女は、2014年12月にアプリをリリースしてからわずか3年でユーザー数を1億3000万人、DAU(デイリーアクティブユーザー)を約1000万人にまで伸ばした。2019年7月にはユーザー数が2億人を突破し、中国で最も人気のある漫画アプリとなっている。

「快看漫画」の特徴は、紙漫画のページをそのままデジタル化するのではなく、コマを切り出し、スマホの画面の横幅に合わせて表示している点だ。加えて、読者が縦スクロールして読めるようにコマ送りを構成し、高画質のフルカラーで提供している。

さらに特筆すべきは、「快看漫画」に掲載されている作品の数がきわめて少ないことである。具体的には、中国国内の最大のライバルである他のアプリの10分の1ほどの数だ。作品数は少ないものの、メガヒット作品を取り揃えてユーザーを呼び込むことに成功している。

「快看漫画」が急成長を遂げたのは、「好循環の仕組み」を築くことができたからだ。スマホに最適化されたアプリをSNSで拡散させ、利用者を増やしてビッグデータを集める。そしてそれを作品づくりに生かし、閲覧履歴から最適なレコメンドを提供したからこそ、大きく成長することができたのだ。

(1)スマホ最適化によって投資を受けるステージ
日経BP 提供

「快看漫画」の誕生から現在に至る事業展開のプロセスは、大きく4つに分けられる。

1つ目は、スマホ最適化によって投資を受けるステージだ。それまで漫画は、紙媒体で読んでもらうことを念頭に制作されてきた。しかし「快看漫画」は、スマホに合わせてコンテンツを作った点で特徴的だ。

それまでの漫画アプリは、スマホで読みやすい形式とは言えなかった。そこで陳氏は、スマホに適した形で漫画をユーザーに届けると決めた。

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要約公開日 2021.10.19
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