あなたが試してうまくいった、画期的なダイエット法があったとする。お金も時間もかからないだけでなく、科学的にも効果が証明されている、すばらしいダイエット法だ。あなたは「このダイエット法なら必ず友人の悩みを救える」と考え、その方法を体重増加に悩む友人に伝える。だが当の本人は、あまりよい反応を示さない――。あなたはきっと、友人の反応にモヤモヤするだろう。
相手によい提案をしてもなかなか動いてくれないというのは、ビジネスシーンでもよくあることだ。その原因は「現状維持バイアス」にある。人は行動を変えることに抵抗感を抱くのだ。
現状維持しようとする人に働きかけるとき、多くの人は「よい解決策をプッシュする」というアプローチを選ぶ。企業が行うマーケティング活動、営業担当のセールストーク、メンバーに対するマネジャーの指導……いずれも「よい解決策をプッシュする」アプローチが中心だ。
だが相手を動かしたいなら「良い解決策」を一方的に押し付けてはならない。強引に押し切って相手を思い通りに動かしても、結局しこりが残ってしまう。その結果、相手が不満を抱いたり、人間関係が悪化したりする可能性が高くなる。
「よい解決策」は自分の正しさの押し売りでもある。相手と正しさを競うことになると、3つの落とし穴に陥りやすくなる。
1つ目の落とし穴は、相手の抵抗を生むことだ。自分の正しさを伝える行為は、相手が間違えているというメッセージにもなる。誰しも自分の間違いを認めるのはイヤなものだ。その結果、相手は動いてくれなくなる。
2つ目の落とし穴は、隙のない準備が議論を殺してしまうことだ。貴重な時間を使うのだから準備は必要だが、反論や突っ込みを恐れて隙なく準備すると、情報が膨らみ、本質的なポイントが隠れてしまう。かえって伝えたいことが伝わらず、コミュニケーションは一方的なものになるだろう。
3つ目の落とし穴は、強硬なコミュニケーションによって相手の心が折れてしまうことだ。人は相手を「正しさ」で上回れないとき、思考停止し、そのまま従ってしまうことがある。そのような関係性を含む組織は、提案や情報共有がなされない、働きづらいものだ。
本書では、競争ではなく共創、疑問や反論を活かして結論を進化させるディスカッションをめざす。共に創るディスカッションには、それを支える7つのスキルがある。
想定する力:ゴールに向かうなかで発生する壁に対応するスキル
段取りする力:双方向のコミュニケーションを進めながら、目的達成のための資料やアジェンダを組み立てるスキル
理解を深める力:相手を理解し関係を深めるスキル
見える化する力:情報をビジュアル化して場を前進させるスキル
思い込みを外す力:相手の先入観や固定観念を特定して認知の枠組みを再定義するスキル
軸を動かす力:相手の「割に合わない」という感情を取り除くために意思決定の軸を動かすスキル
巻き込む力:アクション遂行まで熱量を維持し、相手と一体になって推進していくスキル
要約ではこのうち、「想定する力」と「理解を深める力」、そして「見える化する力」を取り上げる。
「想定する力」とは、めざすゴールを設定し、疑問や反論などといった壁を想定して、対応方法をシミュレーションするスキルだ。気持ちのよい合意をして相手が動く「最高の状況」と、相手との関係が崩壊する「最悪の状況」、その両方を想定して準備しておく。そうすれば臨機応変に対応でき、安心して共に創るディスカッションができるはずだ。
最高と最悪の両方に備えるためには、T字型の図を用いて「ゴール」「壁」「対応策」を考えるとよい。
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