武器としての組織心理学

人を動かすビジネスパーソン必須の心理学
未読
武器としての組織心理学
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武器としての組織心理学
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2021年09月14日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

効果的なリーダーシップやマネジメントの新常識を学ぶうえで格好の一冊が登場した。職場での立場がフォロワーからリーダーになるとき、そしてメンバーの多様性に直面したとき、人間関係の難しさに頭を悩ませた経験はないだろうか。

組織心理学者の著者は、そうした読者に向けて、数々の最先端のデータや研究をもとに客観的な視点を与えてくれる。例えば、職場に嫉妬深いメンバーがいて、チームの業務遂行に支障が出てしまっている場面を想像しよう。そのメンバーとのかかわりを避けたいと思うかもしれないが、部下との関係となるとそうもいかない。そんなとき、一見厄介に思われる嫉妬にもポジティブな側面があるというと驚くだろうか。著者は、妬みという感情がチームの活性化、パフォーマンス向上への起爆剤にもなりうることを解き明かし、リーダーがとるべき戦略も提示してくれる。

本書では、妬み、温度差、不満、権力、信用(不信感)の5つのテーマで、組織に根づくネガティブな関係をポジティブな関係に変えていくための処方箋を導き出していく。もちろん、難解な内容ではないので安心していただきたい。「人間の本性」を利用しているため、応用範囲が広く、「明日から職場で何か一つ試してみよう」と思えるアクションがちりばめられているのが、本書の魅力でもある。

組織心理学が自身の身を守り、チーム力をさらに高めてくれる強力な武器であることを実感できるだろう。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

山浦一保(やまうら かずほ)
立命館大学スポーツ健康科学部教授。専門は、産業・組織心理学、社会心理学。企業やスポーツチームにおける「リーダーシップ」と「人間関係構築」に関する心理学研究に従事。福知山線脱線事故直後のJR西日本や、経営破綻直後のJALを始め、これまでに数多くの組織調査を現場で実施。個人がいきいきと働きながら組織が成果を上げるために、上司や部下はどのような関係を構築すれば良いのか、理論と現場調査の両面から解明を試み続ける。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間の非合理的な判断や行動の背後には、「自分が危険な状態や脅威にさらされたときに生じる感情」がある。
  • 要点
    2
    中でも最も厄介な「妬み」には「悪性の妬み」と「良性の妬み」がある。良性のものにはパフォーマンスを向上させる力もある。
  • 要点
    3
    コミュニケーションは「熱伝導」である。組織内に温度差を生まないためには、リーダーによるメンバーへの声かけや情報の開示などにより、情報が伝達しやすい風土や環境をつくることが重要となる。

要約

【必読ポイント!】 妬み

非合理的な行動は「感情」のせい

一人の力でこなせる仕事の量や生み出せる成果には限界がある。リーダーとして成果を上げるには、よりよい人間関係の構築が必要だ。そこで役立つのが「組織心理学」の知見である。組織心理学とは、うまくいっている組織や集団に共通するリーダーシップや人間関係を明らかにする学問である。

そもそも人間は非合理的な行動をとりがちである。例えば健康診断でメタボと診断され、適度な運動と食事制限を指導されたのに飲み会に参加する、といったことだ。計画どおりが一番効果的とわかっていても先延ばししてしまう思考や現象は、「双曲割引」と呼ばれる。

また人間は、置かれている環境や所有しているものを手放すことに強い抵抗を示す。たとえ千載一遇のチャンスを目の前にしても、不安や面倒さが先に立って現状を維持するという行動は、「保有効果」と呼ばれる。

これらの非合理的な判断や行動の背後にあるのは、「自分が危険な状態や脅威にさらされたときに生じる感情」だ。

厄介な「妬み」のマネジメント
kieferpix/gettyimages

非合理的な行動に駆り立てる感情の中でも最も厄介なのが「妬み」である。妬みは本来、有能な相手から自分の資源を守るためのセンサーの役割を担う。しかし、現代の人間関係では、有能な相手をあからさまに排除すれば、それが周囲からの評価や評判を自ら落とすことになりかねない。

妬みの感情をマネジメントし、活用する方法はないのだろうか。妬みには「悪性の妬み」と「良性の妬み」がある。悪性の妬みは敵意や憤怒を中心にしてつくられる不快な感情だ。これに対し、良性の妬みは羨望などのあこがれの感情で、相手を認めて協力的な志向になることを促してくれる。よって妬みにはパフォーマンスを向上させる力もあるといえる。妬みの対象にアドバイスをもらって積極的に学ぶという行動をとれば、妬む人のパフォーマンスが改善されるだけでなく、妬まれている相手も尊敬されていると認知される。そのため、お互いの関係性を良好にできる可能性がある。リーダーの立場からすると、条件が整えば、妬みをもつメンバーは、チームの起爆剤になり得るのだ。

温度差

温度差の正体

上司と部下の関係性の形成にかかる時間は非常に短い。大学生を対象にした実験的調査では、大学院生のリーダーと学部学生のメンバーとの間には出会って間もなく固有の関係性が形成され、8週間が経過するまでの間にほぼ安定したことが報告された。注意したいのは、リーダーと良好な関係にある部下は内集団、それ以外の部下は外集団として棲み分けがなされ、それが職場の分断の原因となってしまう点である。

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要約公開日 2021.11.10
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