一人の力でこなせる仕事の量や生み出せる成果には限界がある。リーダーとして成果を上げるには、よりよい人間関係の構築が必要だ。そこで役立つのが「組織心理学」の知見である。組織心理学とは、うまくいっている組織や集団に共通するリーダーシップや人間関係を明らかにする学問である。
そもそも人間は非合理的な行動をとりがちである。例えば健康診断でメタボと診断され、適度な運動と食事制限を指導されたのに飲み会に参加する、といったことだ。計画どおりが一番効果的とわかっていても先延ばししてしまう思考や現象は、「双曲割引」と呼ばれる。
また人間は、置かれている環境や所有しているものを手放すことに強い抵抗を示す。たとえ千載一遇のチャンスを目の前にしても、不安や面倒さが先に立って現状を維持するという行動は、「保有効果」と呼ばれる。
これらの非合理的な判断や行動の背後にあるのは、「自分が危険な状態や脅威にさらされたときに生じる感情」だ。
非合理的な行動に駆り立てる感情の中でも最も厄介なのが「妬み」である。妬みは本来、有能な相手から自分の資源を守るためのセンサーの役割を担う。しかし、現代の人間関係では、有能な相手をあからさまに排除すれば、それが周囲からの評価や評判を自ら落とすことになりかねない。
妬みの感情をマネジメントし、活用する方法はないのだろうか。妬みには「悪性の妬み」と「良性の妬み」がある。悪性の妬みは敵意や憤怒を中心にしてつくられる不快な感情だ。これに対し、良性の妬みは羨望などのあこがれの感情で、相手を認めて協力的な志向になることを促してくれる。よって妬みにはパフォーマンスを向上させる力もあるといえる。妬みの対象にアドバイスをもらって積極的に学ぶという行動をとれば、妬む人のパフォーマンスが改善されるだけでなく、妬まれている相手も尊敬されていると認知される。そのため、お互いの関係性を良好にできる可能性がある。リーダーの立場からすると、条件が整えば、妬みをもつメンバーは、チームの起爆剤になり得るのだ。
上司と部下の関係性の形成にかかる時間は非常に短い。大学生を対象にした実験的調査では、大学院生のリーダーと学部学生のメンバーとの間には出会って間もなく固有の関係性が形成され、8週間が経過するまでの間にほぼ安定したことが報告された。注意したいのは、リーダーと良好な関係にある部下は内集団、それ以外の部下は外集団として棲み分けがなされ、それが職場の分断の原因となってしまう点である。
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