新しい商品やサービスに初めて出会ったとき、それが自分にとってどれぐらい価値があるのか判断するのは簡単ではない。そこで、過去の同じようなものと比較して、それを基準にしようとするだろう。
たとえば、遠く海外から来ている友人が、ふるさとのお酒を飲めるパブを近所で見つけたとする。その友人に一杯おごるとして、その金額はいくらと予想するだろうか。
ボトルからワイングラスに注がれて提供されたとしよう。するとワインを基準に560円と見当をつけるだろう。シャンパングラスに注がれると、980円かもしれない。それに対してハーフパイント(285ml)のジョッキ売りだと、おそらくビールを基準に280円が妥当と思うだろう。ショットグラス(25ml)で出てくると、リキュールと見なしてその量に280円支払うのも抵抗ないはずだ。容量に換算すれば価格には10倍以上の開きがある。
このように売り手側は、できるだけ高価な商品と類似しているように仕向けて、想定価格を操作する。
価格を決めるときに考えるべきは、顧客にとってのベネフィット(便益としての価値)である。原価をベースに価格を考えても、それが適正価格とは限らない。
ベネフィットは、顧客が自社の商品やサービスを購入するときの理由となる。そこで、まず購入の理由と考えられるものをひとつずつ書き出してみよう。たとえばチョコレートティーという商品について、「特徴的な甘い味」「のどの渇きをいやす」「カフェインを摂取する」「仲間と一緒に楽しむ」などがあげられるだろう。ついで、それぞれの理由の根源的な動機を探っていく。甘さによって思い出が連想されたり、疲れがとれたり。
どんな価値も最終的には、「楽しさ」と「苦しさの回避」という2つの基本的な感情と、「時間」と「金銭」という2つの現実的な利便性から派生していることが見えてくる。
それぞれの購入理由ごとに、異なる競合相手がいるし、それぞれのニーズを満たすための選択肢も複数ある。競合相手が変われば、戦う価格領域も異なる。競合相手の選択と、それに合わせたポジショニング次第では、まったく違う価格を設定できる。
購入理由ごとに同じ価値を提供する商品やサービスをリストアップし、単価が最も高いものに合わせてポジショニングを考えれば、一番高い価格が設定できる。このような価値分析は、心理効果を利用した価格設定やマーケティングを理解するための基本になる。
先ほどのチョコレートティーの例でいえば、「のどの渇きをいやす」ためであれば家庭の水道水が競合相手になるかもしれない。「仲間と一緒に楽しむ」社交ツールとして考えるなら、カフェでコーヒーを飲むこと以外にも、パブでワインを楽しむ、映画館に出かけるといったことも含まれるので、より高いポジショニングが期待できるだろう。
「顧客は自分の考えをわかっていないし、自分がわかっていることを言わないし、言ったとおりに実行しない」――これは、広告会社オグルヴィ・アンド・メイザーの創業者であるデイヴィット・オグルヴィが語った言葉である。
質問の仕方や質問場所を変えれば、調査に対する答えは簡単に変わる。市場調査でわかることのひとつは、質問の答えではなく、意見を変えることの簡単さなのだ。
潜在顧客の支払許容限度額を知り、抵抗なく支払う価格帯によってセグメンテーションをすることは、価格戦略上の重要な作業である。しかし、「この商品にいくら払いますか?」という直接的な質問はリスクが高い。相手は、価格を下げてもらおうという思いから、意識的に低い金額を答える。
こうした先入観や主観を排除するためには、できる限り実際の状況を再現しながら質問するように心がけるとよい。たとえば本人だったらどうするかではなく、友人だったらどうするかを聞く。そうすれば当事者の利害というバイアスがかからない。
一般的に価格は、98円、198円、180円など8や9、80で終わっていることが多い(註:原著では「99ペンス」だが日本語訳の本書では日本市場にあわせて表現が変更されている)。車の価格も330万円ではなく328万円に設定されていたりする。それによって売上に違いがあることは調査によって実証されているが、その理由について納得のいく心理的な説明がある。
3,400冊以上の要約が楽しめる