本書は、尾原和啓氏と宮田裕章氏、山口周氏の鼎談形式で構成されている。
尾原氏はDX(デジタル・トランスフォーメーション)にはさまざまな定義があるとしたうえで、ネットとAI(人工知能)が中心的な役割を持っていると語る。
ネットの本質は、あらゆるものを細分化し、遠くにあるものをつなげることだ。AIの本質は、自動で認識・識別・予測し、多様なものを最適なものにつなげることにある。
現状のDXは、初期段階の全体最適と自動化が着目されている。しかしこれからは、DXのコアとして、ネットの本質の「遠くをつなぐこと」と「多様なものを最適につなぐこと」がテーマとなってくるだろう。
宮田氏によると、DXという言葉はビジネスの文脈では浸透しつつあるが、その本質である「体験価値を問い直すこと」はまだ道半ばの状態にある。
宮田氏はDXの実践のきっかけとして「ひとりひとりの価値を捉え、個別化と包摂を実現する体験を提供すること」を強調している。
医療分野におけるDXの実践例としては「医療の価値を高めるためのデータ利活用・共有」「自然災害時に被災者をケアするために医療データを使用」「感染症患者のデータを流行防止のために使用」などが挙げられる。
さらに宮田氏は、新たな社会システムとして、「データ共鳴社会」を提唱している。データの利活用によって誰ひとり取り残さず、ひとりひとりに寄り添いながら、「個別化」や「包摂」を実現する社会だ。
宮田氏は、データの利活用により「最大多数の最大幸福」ではなく「最大“多様”の最大幸福」を目指す社会システムを打ち出した。
これに関連し、尾原氏は中国の現状を説明する。昔の中国ではタクシーに乗ると、乗車拒否や遠回りをしてメーターを稼いだり、目を離した隙にメーターをいじったりするドライバーがたくさんいた。
これは一回性の中で物事を考えているからこそ起きることである。サービスがひどかったとしても二度目は大抵ない。サービスを提供する側としてはモラルを捨て、短期的な利益を重視する方が、長期的な儲けが大きくなる。「一回だけ勝てばオッケー」という環境において、人間はエゴな振る舞いをしやすい。
しかし、DiDiのようなタクシーの配車サービスが登場し、「ドライバースコア」といった概念が出てくると状況は変わる。ドライバースコアが高ければ、さらに報酬が高くなる仕組みができた。
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