近年、ミレニアル世代(1980~1990年代後半に生まれた世代)やZ世代(1997~2012年に生まれた世代)による新たな消費スタイルが、世界中で主役になりつつある。ジェンダーや人種、気候変動などの社会課題に対する関心が非常に高く、SNSの普及によって多様な意見に触れた若者たちは、リーマンショック、パンデミックなどの出来事を経験し、時代の価値観を作っているのだ。
若者たちはジェンダーや人種に関する旧来の常識を疑い、社会課題の解決を政府やメディアではなく、ブランドや企業に期待している。社会課題に対する高い意識を持った消費者は、「ただモノを買う人」から「社会を良くするために消費をする市民」へ変化した。
かつて経済学者のミルトン・フリードマンは「ビジネスの社会的責任はただ一つ。利潤を増やすことである」と言い、企業は株主価値を最大化することを目指してきた。しかし消費者の期待が、社会をよりよい方向へと進化させることへと変わりつつある今、企業はビジネスの目的や活動のあり方を根本的に見直すことを迫られている。本書ではこのような変化を「意義化する経済」と呼ぶ。
2019年、AppleやAmazon、ウォルマートなどの経営者による団体は「もはや利益をビジネスの最終目標にしない」という趣旨の声明を発表した。世界最大の資産運用会社も、投資戦略の中心にサステナビリティを置き、サステナビリティに配慮しない企業から投資資金を引き上げることを打ち出した。これらは、先のフリードマン的な考え方からのコペルニクス的転回といえる。
革新的であるだけでなく、倫理的問題に配慮し、社会課題に資するサービスこそが評価され、支持される時代がやってきつつあるのだ。
こうした流れに呼応して、進歩的かつ報酬も高いことで人気の就職先だったGAFAなどのテクノロジー企業が、優秀な学生の採用に苦戦している。実際、Facebookのソフトウェアエンジニアの内定受諾率は2016年から2019年に40%も減っているほどだ。
感度の高いインフルエンサーは、Instagramで「映える」写真を発信するよりも、社会課題や政治問題に対して「どういうスタンスをとるか」が自己ブランディングにより大きな影響を与えるようになったと自覚し始めている。企業やブランドも、見栄えだけを発信するのではなく、その企業の商品を買うことで「自分も社会課題の解決に貢献している」という感覚を得られるかどうか、点検する必要があるだろう。
世界的に見れば、ミレニアル世代、Z世代のマーケットは巨大化している。一方、高齢化が進む日本では、本当に若者に向けたビジネスに注力する必要があるのかと疑問を抱く向きもあるだろう。
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