サステナブル資本主義

5%の「考える消費」が社会を変える
未読
サステナブル資本主義
サステナブル資本主義
5%の「考える消費」が社会を変える
未読
サステナブル資本主義
出版社
出版日
2021年10月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

著者はまず、フランスの経済学者、トマ・ピケティの有名な「r>g」という不等式を引用し、資本によるリターンが実体経済の成長(グロース)を上回ることを示す。これにより、資金力や技術力を持つ投資家や企業に富が集中し、不可避的に大きな格差を生み出している、現状の資本主義社会の姿を描き出す。

そのような一握りの富裕層に蓄積された富は、世界的にカネ余りを起こし、新たな投資先を求めて漂っているという。その有望な投資先が、ESGやSDGsに取り組む企業である。

しかし、現状の資本主義のままでは持続可能性に限界がある。著者はそれに代わる体制として、「サステナブル資本主義」を提唱する。

この新しい資本主義の主役は、投資家でも企業でもない、私たち消費者である。なぜなら消費は企業にとってはファイナンスでもあるからだ。要約者はこの言葉に虚を突かれた。まさに逆転の発想だ。消費という行動が投資の方向性を決め、経済を先導していくというのだ。そのためには、「投資家のマインド」を持った5%の消費者が必要だという。

ここで思い出したのは、フライヤーの要約にもある『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』という本だ。もちろん全員が1万円のネギを買う必要はないが、数人の消費者がこの値段を正当と評価して購入すれば、生産を支えることができる。まさに、消費が生産者へのファイナンスになるのだ。

資本主義の未来に関心があれば、ぜひ刺激的な発想にあふれた本書に触れてみてほしい。

ライター画像
しいたに

著者

村上誠典(むらかみ たかふみ)
1978年、兵庫県生まれ。シニフィアン株式会社共同代表。東京大学・宇宙科学研究所(現JAXA)を経て、ゴールドマン・サックス証券に入社。東京・海外オフィスにてM&A、資金調達、IR、コーポレートファイナンスの専門家としてグローバル企業の戦略的転換を数多く経験。2017年に「未来世代に引き継ぐ産業創出」をテーマにシニフィアンを創業。200億円の独立系グロースキャピタルを通じたスタートアップ投資や経営支援、上場/未上場の成長企業向けのアドバイザリーを行なう。

本書の要点

  • 要点
    1
    サステナブル資本主義に必要なのは、投資家マインドを持った「考える消費者」だ。
  • 要点
    2
    投資家マインドを育むには、消費を投資と捉え、それぞれの消費が自分や家族を含む社会というステークホルダーに提供する価値を考えることだ。同様に労働も投資と捉えること、実際に投資=資産運用をすることが重要である。
  • 要点
    3
    サステナブル資本主義の実現には、十分な人口や教育水準の高さ、社会課題への共感力などが必要となる。

要約

資本主義の強力なルール

資本主義のジレンマを超えて

現在、スタートアップをはじめとする多くの企業の経営者は、サステナブル(持続可能)な社会の実現に尽力したいという思いを持っている。

しかしほとんどの場合、何をどうすればいいか見出せず、短期的な利益創出という資本主義のジレンマによって身動きがとれなくなっている。

本書は、既存の資本主義の問題点を明らかにする。同時に、それに代わる新たな資本主義を「サステナブル資本主義」と名付け、国、大企業、スタートアップ、個人それぞれがどのように振る舞えばサステナブル資本主義が可能となるのか、その道筋を示す。

結論として、企業価値の向上と持続可能な社会に向けての課題解決は、資本主義のジレンマを超えて両立し得る。

いま世界の金融の世界ではカネ余りが起きており、数千兆円の投資マネーが行き場を定めかねている。そうしたマネーの投資先として、サステナブルな社会を目指すESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)は、大きな期待を集めているのだ。

投資収益率の優位性
AH86/gettyimages

資本主義において、近年明らかになってきている法則がある。それはフランスの経済学者トマ・ピケティが発表した、資本によるリターン(return)つまり資本収益率が、実体経済の成長(growth)を上回ることを示した「r>g」という法則である。

このことは、一定の富を手にした人であれば、下手に働くよりも投資するほうが効率的にお金を稼ぐことができるということを意味している。

資本主義のメカニズム

投資がお金を増やす仕組みを、簡単な例で見ていく。

ある企業の配当利回りを2%、純利益に占める配当金の割合を示す配当性向を40%としよう。仮に、利益が1000、株式価値が2万であったとする。

今期利益が7%増加し、1070になったとすると、投資家は配当として1070×0.4=428を得ることになる。さらに配当利回りが2%なので、株式価値は2万1400へと1400増加する。これで投資家の保有する価値は、配当と株式価値の増加と合わせて1828に増えたことになる。

一方、企業が保有する現金は、利益から配当を除いた642の増加にとどまる。企業の現金以上に、投資家が手にする価値が増加するのはこのようなメカニズムによる。これは、資本主義自体に埋め込まれている仕組みだ。

この仕組みの中では、従業員に支払う給与の総額を大きくすると、利益額が小さくなり株主へのリターンは相対的に減少する。労働者への分配と株主への分配は、明確なトレードオフ(二律背反)の関係にある。

イノベーションのパワー

資本主義社会を駆動するもうひとつのパワーはイノベーションである。

コンピューティングの進化がAIやデータによる価値創造の世界を飛躍させたように、クラウド化が自明なトレンドであったからこそ、巨大IT企業が参入し、巨額の投資を行ってきた。

今後のイノベーションの方向性は、自動運転、ロボティクス化、イー・コマース化など、ある程度予見できている。だからこそ、GAFAMのような資金力と技術力のある企業は、こうした方向性を前提に、多方面に投資を行うことで、持続的に競争力を維持することに成功してきた。

こうした企業は資本市場から大きく評価され、株価の大幅な上昇を実現している。それとともに、多くの優秀な人材を引き付け、ますます強大になっていく。そうした企業群に投資した投資家はさらに富を築き上げる。この循環により、格差が再生産されていく。

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要約公開日 2021.11.19
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