現在、スタートアップをはじめとする多くの企業の経営者は、サステナブル(持続可能)な社会の実現に尽力したいという思いを持っている。
しかしほとんどの場合、何をどうすればいいか見出せず、短期的な利益創出という資本主義のジレンマによって身動きがとれなくなっている。
本書は、既存の資本主義の問題点を明らかにする。同時に、それに代わる新たな資本主義を「サステナブル資本主義」と名付け、国、大企業、スタートアップ、個人それぞれがどのように振る舞えばサステナブル資本主義が可能となるのか、その道筋を示す。
結論として、企業価値の向上と持続可能な社会に向けての課題解決は、資本主義のジレンマを超えて両立し得る。
いま世界の金融の世界ではカネ余りが起きており、数千兆円の投資マネーが行き場を定めかねている。そうしたマネーの投資先として、サステナブルな社会を目指すESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)は、大きな期待を集めているのだ。
資本主義において、近年明らかになってきている法則がある。それはフランスの経済学者トマ・ピケティが発表した、資本によるリターン(return)つまり資本収益率が、実体経済の成長(growth)を上回ることを示した「r>g」という法則である。
このことは、一定の富を手にした人であれば、下手に働くよりも投資するほうが効率的にお金を稼ぐことができるということを意味している。
投資がお金を増やす仕組みを、簡単な例で見ていく。
ある企業の配当利回りを2%、純利益に占める配当金の割合を示す配当性向を40%としよう。仮に、利益が1000、株式価値が2万であったとする。
今期利益が7%増加し、1070になったとすると、投資家は配当として1070×0.4=428を得ることになる。さらに配当利回りが2%なので、株式価値は2万1400へと1400増加する。これで投資家の保有する価値は、配当と株式価値の増加と合わせて1828に増えたことになる。
一方、企業が保有する現金は、利益から配当を除いた642の増加にとどまる。企業の現金以上に、投資家が手にする価値が増加するのはこのようなメカニズムによる。これは、資本主義自体に埋め込まれている仕組みだ。
この仕組みの中では、従業員に支払う給与の総額を大きくすると、利益額が小さくなり株主へのリターンは相対的に減少する。労働者への分配と株主への分配は、明確なトレードオフ(二律背反)の関係にある。
資本主義社会を駆動するもうひとつのパワーはイノベーションである。
コンピューティングの進化がAIやデータによる価値創造の世界を飛躍させたように、クラウド化が自明なトレンドであったからこそ、巨大IT企業が参入し、巨額の投資を行ってきた。
今後のイノベーションの方向性は、自動運転、ロボティクス化、イー・コマース化など、ある程度予見できている。だからこそ、GAFAMのような資金力と技術力のある企業は、こうした方向性を前提に、多方面に投資を行うことで、持続的に競争力を維持することに成功してきた。
こうした企業は資本市場から大きく評価され、株価の大幅な上昇を実現している。それとともに、多くの優秀な人材を引き付け、ますます強大になっていく。そうした企業群に投資した投資家はさらに富を築き上げる。この循環により、格差が再生産されていく。
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