種の起源(上)

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種の起源(上)
出版社
出版日
2009年09月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

1831年、英国海軍の測量船ビーグル号は南アメリカ東岸の海図作成のために、5年間の航海に出る。その船に艦長の話し相手として乗り込んだのが、22歳のチャールズ・ダーウィンだ。

出航の時点では無名だったものの、旅先から送った膨大な標本と観察日誌により、帰還時には生物界の寵児となっていた。彼はこの航海直後から、生物進化に関する秘密のノートをつけ始めた。世界に激しい議論の種子を撒いた『種の起源』の出版は、それから数えて23年後の1859年である。その当時、イギリス社会はまだ国教会の影響下にあり、すべての生物は神が個別に創造したものだというキリスト教由来の創造論は根強かった。彼は、この問題に関係しそうなあらゆる事実を辛抱強く集め、用意周到に準備し、きわめて慎重に世界を変えようとしたのだろう。

本書は専門的な論文ではない。誰にでも理解できる一般教養書であるとともに、ダーウィンの誠実な人柄、非常に細やかで鋭い観察力、類まれな粘り強さ、真理を探究する情熱にあふれた本になっている。進化が起こるメカニズムとしての自然淘汰説を世に問うたこの本は、彼が自ら飼育栽培した動植物における変異にはじまり、自然下での変異、生存闘争と話を進める。上巻の最後は、自ら自然淘汰説への反論として「本能」という難題に挑戦している。

すべての生物の神秘と謎を、ひとつの原理を用いて解き明かすことに挑んだスリリングな内容。もちろん、さまざまな動植物の不思議な生態にまつわる興味深い話も満載だ。自然を愛する人すべてにお勧めできる本だと思う。

ライター画像
たばたま

著者

チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)
[1809-1882]イギリスの自然史学者、著述家。イングランド西部の商業都市シュルーズベリで、6人兄弟姉妹の5番目、次男として生まれる。地元のパブリックスクール卒業後、エジンバラ大学医学部に入学したが1年半で退学し、ケンブリッジ大学に転学。卒業後、英国海軍測量艦ビーグル号に乗り込み、5年をかけて世界を周航した。帰国後は在野の著名な自然史学者として研究と著作に従事する。1859年、『種の起源』を出版し、世界を震撼させた。1882年に自宅で死去。葬儀はロンドンのウェストミンスター・アビー(大修道院)で執り行なわれ、遺体もそこに埋葬された。代表作は『ビーグル号航海記』『人間の由来』『人間と動物の感情表現』『ミミズによる腐植土の形成について』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    飼育栽培下では「選抜」という方法で、自然条件下では「自然淘汰」によって、個体差と呼べるわずかな差異が蓄積される。
  • 要点
    2
    多数の個体が生まれるものの、生き残れるのは少数だ。わずかな変異でも有用ならば保存されるという原理を、「自然淘汰」の原理と呼ぶ。
  • 要点
    3
    「自然淘汰」は、あまり改良されていない多くの中間的な生物を絶滅させる。全生物の類縁の本質はこの原理で説明できる。
  • 要点
    4
    本能は、利益をもたらす小さな差異が世代を超えて少しずつ蓄積されることで、複雑なものとなる。

要約

変異とは何か

飼育栽培下での変異

長年飼育栽培されてきた植物や動物のほうが、野生状態にあるものより、一般に変異がはるかに多い。それは飼育栽培下のほうが環境が多様である上に、環境自体が異質だからだ。

では、成長過程のどの段階に、変異を生じさせる原因があるのか。一つは、親の生殖因子が受精前に影響を受けるのではないか、ということだ。飼育下でまったく繁殖しなくなる植物や動物もある。

また習性にも変異を起こす大きな影響力がある。たとえばカモとアヒルを比べた場合、全骨格に対する翼の骨の重量比率は、家禽であるアヒルのほうが小さい。原種にあたるカモに比べると、アヒルはほとんど翼を使わないからだ。

変異には謎めいた相関作用が見られる。脚の長い動物は、ほぼ必ず頭も長い。眼の青いネコは、例外なく耳が聞こえない。

飼いバトの研究から気づいたこと
TerryJ/gettyimages

古い歴史をもつ家畜や作物の大半は、その原種が一種なのか複数種なのか、明確な結論は出ない。ただ、アヒルと飼いウサギは品種ごとに形態がかなり異なっているが、それぞれ一種類の野生のカモとアナウサギの子孫であることは疑いない。

ダーウィンはこの研究の最善の方法として、飼いバトに的を絞った。頭部にみごとな肉だれのあるものや、長くて頑丈なくちばしと大きな足を持つものもいれば、翼と尾の長いものや尾が著しく短いものもいる。野生の鳥だとしたら、20種に分けてしまうところだ。

しかし他のナチュラリスト同様、ダーウィンもすべての品種はカワラバトただ一種の子孫であると考えている。カワラバトがヨーロッパとインドで飼い慣らされていて、習性についても形態の多くの特徴においてもすべての品種と一致していることが、その理由の一つだ。

「選抜」の原理とその「威力」

飼育栽培品種が一つあるいは複数の近縁種から作り出されるのは、そこに「選抜」という原理が働いているからだ。

人間は自分のために有用な品種を作り上げてきた。ただ、「選抜」という原理を使う「改良」は、単に異なる品種をかけ合わせればよいわけではなく、熟練者にしか見抜けないようなごく小さな差異を何代もかけて一つの方向に蓄積させた結果、生みだされるものである。

人間による「選抜」という累積的な作用は、生活条件などの「変化」よりも「威力」としてはるかに優勢だ。

自然条件下での変異

自然条件下でも同じだ。ただし、差異が一つの種のなかの個体差なのか、変種であるのかの区別は曖昧で、憶測が入り込む余地も多い。

しかし個体差は、わずかな変種を生む最初の一歩になりうる。変種がその原種からさらに異なる状態へと移行する過程は、自然淘汰が働いて、形態上の差異がある一定の方向へと蓄積していくことによるものである。種とはよく似た個体の集まりに対して便宜的な呼び名であり、変種という呼び名と本質的には違わない。

【必読ポイント!】 生存闘争と自然淘汰のメカニズム

有用な個体差が子孫に受け継がれる

個体のわずかな変異がその種にとってほんの少しでも有利なものなら、その個体の生存を助け、変異した性質が子孫に受け継がれるだろう。そうした個体は生存率も高まるはずだ。多数の個体が生まれるなかで、生き残れるのは少数だからである。わずかな変異でもそれが有用ならば保存されるというこの原理を、自然淘汰の原理と呼ぶ。

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要約公開日 2021.11.21
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