コトラーのH2Hマーケティング

「人間中心マーケティング」の理論と実践
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マーケティングというと、要約者の頭には「売る技術」という言葉が浮かぶ。次いで、ドラッカーの「顧客の創造」だろうか。

しかし、企業の目的が利益の創出による株主価値の最大化から、共通価値の創造による全てのステークホルダーへの貢献に変わってきたいま、マーケティングの定義も変わらなければならない。キーワードは、H2HのHが意味している“Human”だ。日本版の副題に「人間中心マーケティング」という言葉があるように、H2Hマーケティングは徹頭徹尾「人間を主体とする」ものであると宣言されている。

デジタライゼーションによって、企業は顧客との関係を制御できなくなったことも語られている。それを象徴するのがアドボケート(推奨)という顧客同士の行為であり、企業としてそこにどのようにアプローチするのかというのは、現場担当者の最も切実な課題だろう。

本書では、現時点でのマーケティングのゴールとあるくらい、実に様々なマーケティングのセオリーとモデルが紹介されている。その中には、日本に初めて紹介されたものも多く、監訳者による補足解説が非常にありがたい。しかし、うっかりするといま自分がどこにいて、何について学んでいるのかわからなくなる可能性もあり得る。そこで、最初に3本の支柱と3つのレイヤーの構造をしっかり頭に入れることが、本書を読み進めるうえで有効だと思う。豊富な図や表も有用な手がかりとなるだろう。本要約も、ぜひガイドとして活用していただきたい。

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しいたに

著者

フィリップ・コトラー(Philip Kotler)
イリノイ州ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院インターナショナルマーケティングS.C.ジョンスン&サン名誉教授。マーケティングの権威の一人。シカゴ大学で修士号、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得(いずれも経済学)。ハーバード大学で数学、シカゴ大学で行動科学のポクドク研究に従事。
著書に、世界中の経営大学院で最も活用されているマーケティング本『コトラーマーケティング・マネジメント』シリーズのほか、『コトラー ソーシャル・マーケティング』(共著、塚本一郎 訳、丸善)、『コトラーの戦略的マーケティング』(木村達也 訳、ダイヤモンド社)、『コトラー 新・マーケティング原論』(共著、有賀裕子訳、翔泳社)、『コトラーのマーケティング思考法』(共著、恩藏直人、大川修二 訳、東洋経済新報社)、『コトラーのマーケティング・コンセプト』(恩藏直人、大川修二訳、東洋経済新報社)、『コトラーのマーケティング4・0』(共著、恩藏直人、藤井清美 訳、朝日新聞出版)、『コトラーのB2Bブランド・マネジメント』(ヴァルデマール・ファルチと共著、杉光一成、川上智子 訳、白桃書房)、『コトラーのリテール4・0』(共著、恩藏直人 監修、高沢亜砂代 訳、朝日新聞出版)などがある。また、主要な学術誌に100以上の論文を発表し、最優秀論文賞も多数受賞している。
米国マーケティング協会(AMA)の「Distinguished Marketing Educator Award」の初回受賞者(1985年)であり、ヨーロッパのマーケティングコンサルタント・アンド・セールストレーナー協会による「マーケティング・エクセレンス賞」も受賞している。1975年、AMAの学術会員を対象に行った調査で「マーケティング思想のリーダー」に選出された。1978年にはマーケティングへの独創的な貢献を称えるAMAの「ポール・コンバース賞」を、1989年には、「チャールズ・クーリッジ・パーリン・アニュアル・ナショナル・マーケティング賞」を、1995年には、SMEI(Sales and Marketing Executives International)から「マーケティング・オブ・ザ・イヤー賞」を受賞している。
IBM、GM、AT&T、ハネウェル、バンク・オブ・アメリカ、メルクなどの企業に、マーケティング戦略・計画、マーケティング組織、国際マーケティング等のコンサルティングを実施。
インスティチュート・オブ・マネージメント・サイエンス・カレッジ・オブ・マーケティング会長、AMA理事、Marketing Science Institute評議員、MACグループ理事、Yankelovich Advisory Boardの元理事。Copernicus Advisory Board委員、シカゴ美術館附属美術大学理事会理事、ドラッカー財団諮問委員会委員でもある。また、ストックホルム大学、チューリッヒ大学、アテネ経済商科大学、デポール大学、クラクフ経済大学、パリの経営大学院、ウィーン経済・経営大学、ブダペシュト・コルヴィヌス大学、サントドミンゴ・カトリック大学から名誉博士号を授与されている。欧州、アジア、南米を広く旅し、健全な経済・マーケティングサイエンスの原則を適用して競争力を高める方法について、多くの企業に助言・講演を行ってきた。また、国の健全な経済発展に向けた強靭な公共機関を構築するための助言を、多くの政府に提供している。

ヴァルデマール・A・ファルチ(Waldemar Pfoertsch)
ドイツのプフォルツハイム大学の国際ビジネス名誉教授。B2Bマーケティングや産業ブランド管理について教鞭を執る。マンハイム・ビジネススクール、上海の同済大学経済管理学院(SEM)、ハイルブロンのミュンヘン工科大学(TUM)の講師でもある。また、インド経営大学院コルカタ(IIMC)、スウェーデンの王立工科大学School of Industrial Engineering and Management(ITM)、ペルーのリマにあるESAN経営大学院でも教えている。2007年から2010年まで、中欧国際工商学院上海校(CEIBS)でマーケティングの教授を務めた。その他、イリノイ大学シカゴ校のエグゼクティブMBAプログラムも担当している。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の客員准教授、レイクフォレスト経営大学院の戦略的経営の講師も務め、メリーランド大学大学院ではオンライン講義を実施。ベルリン工科大学のリサーチアシスタントがキャリアの出発点である。
米国、欧州、中国における経営コンサルタントとして豊富な経験を持つ。UBM/Mercer Consulting Group、アーサー・アンダーセン、LEKコンサルティング在籍時、欧州、アジア、北米で企業の国際戦略の策定を支援してきた。それ以前は、シーメンス社(ドイツ/アメリカ)で営業・戦略担当、国連工業開発機関(UNIDO)(西アフリカ・シエラレオネ)で経済顧問を務めた経験もある。
主な研究領域は、ハイテク企業のグローバル化とそのマーケティングおよびブランディングであり、最新の研究テーマは、企業によるヒューマン・トゥ・ヒューマン(H2H)マーケティングである。

ウーヴェ・シュポンホルツ(Uwe Sponholz)
ヴュルツブルク・シュヴァインフルト応用科学大学(FHWS)教授。専門はサービス・エンジニアリング、イノベーションマネジメント、デザインシンキング、B2Bマーケティング、営業、および戦略的マネジメント。インドのバンガロールにあるキリスト大学を含め、海外の大学でも教鞭を執る。FHWSのビジネス・エンジニアリング学部長として、大学の国際化と革新的な教育方法の導入を戦略的に推進。現在は教鞭を執ることに加え、欧州でのMBAの学位プログラム管理や、2つの研究所(Creative CubeとVR Laboratory)の経営も担当している。
ケルン大学Institute for Trade Researchで研究員を務めた後、同研究所に新設されたコンサルティング部門の部門長となる。その後、大手サービス事業者に対する戦略的アドバイスを専門とするパリの小規模コンサルティング会社Alliances Management Consultantsに移る。その後、シュヴァインフルトのFAGに入社し、グローバルサービスコンセプトの開発と実施に重要な役割を担った。長年にわたり、デザイン思考ワークショップやコンサルティングプロジェクトを通じ、多くの企業を支援してきた。また、In-cito Management ConsultingとBodystanceの株主兼設立パートナーでもある。Bodystanceは、H2Hマーケティングの概念を試す場となっている。

本書の要点

  • 要点
    1
    H2Hマーケティングは、問題提起から解決に至るまで、徹頭徹尾「人間を主体とする」。現在支配的な自己中心的で消費志向のマインドセットを変え、マーケティングの人間的な側面を再活性化していくことを企図している。
  • 要点
    2
    それは、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL)、デジタライゼーションの3つの方法を新しいマーケティングのアプローチとして統合した理論フレームである。
  • 要点
    3
    それはまた、マインドセット(規範)、マネジメント(戦略)、プロセス(オペレーション)という3つのレイヤーから構成されている。

要約

H2Hマーケティングとは

H2Hマーケティングの意義
notmaks/gettyimages

著者らが新しく提唱する「H2Hマーケティング(Human to Human Marketing)」は、問題提起から解決に至るまで、徹頭徹尾「人間を主体とする」。商品や収益よりも人間そのものが大事であることを明確にし、人間の抱える重要な問題の解決方法としてマーケティングを捉え直す。

多方向性をもつインターネット空間における、顧客のプル型の行動、ユーザー生成コンテンツ(UGC)がさらに重要な役割を果たす中、新型コロナウイルスの感染拡大の結果、世界中に広がりつつあるデジタライゼーションの影響に、マーケターは論理的に対応していかなくてはならない。

利益至上主義の非倫理的な行動により、マーケティングへの「信頼」が欠如している。一方市場で、アマゾンは顧客が一度も実物を見ていない商品を配送していることからもわかるように、信用なくして「人間である」顧客との有意義な関係性をつくるのはもはや不可能だ。

また、ドイツのメフェルト教授が言うように、マーケティングは「社内の一部門」なだけでなく、「あらゆる実務領域を市場志向で束ねる企業統治機能」であることが見失われている。

顧客と企業双方のメリットの最大化は、H2Hマーケティングとより高いパーパス(存在意義)の追求で実現できよう。H2H企業は、サプライヤーとともに成長し、顧客、従業員、地域社会と情緒的な絆で結ばれた「愛される企業」だ。

かれらはサステナビリティ思考をもちつつ、直接的なインパクトを持つ消費者、顧客、従業員、間接的なインパクトをもつ政府、メディア、NGO、実現要因インパクトをもつサプライヤー、投資家、コミュニティという、「すべての利害関係者のメリットを最大化」させようとする。

H2Hマーケティングによって、現在支配的な自己中心的で消費志向のマインドセットを変え、マーケティングの人間的な側面を再活性化していこう。

H2Hマーケティングの構造

H2Hマーケティングは、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL:Service Dominant Logic)、デジタライゼーションという3つの考え方を統合した理論フレームである。

デザイン思考は、顧客に関する深い洞察をベースとした思考法であり、革新を生む反復プロセスである。

S-DLは、グッズ(モノ)からサービスへというシフトのなかで、協働エコシステムで価値を共創するための理論基盤となる。

デジタライゼーションは単なるトレンドではなく、顧客やマーケターに新たな選択肢を提供するイネーブラー(実現支援者)である。

そして、これら概念的フレームワーク(H2Hマーケティングモデル)を実装するためのレイヤーとして、成功に導く前提条件となる「マインドセット(規範)」、戦略立案、調整、制御を担う「マネジメント(戦略)」、実務に落としこむ「プロセス(オペレーション)」の3つの要素がある。

以下、1つひとつ見ていこう。

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要約公開日 2021.12.09
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