著者らが新しく提唱する「H2Hマーケティング(Human to Human Marketing)」は、問題提起から解決に至るまで、徹頭徹尾「人間を主体とする」。商品や収益よりも人間そのものが大事であることを明確にし、人間の抱える重要な問題の解決方法としてマーケティングを捉え直す。
多方向性をもつインターネット空間における、顧客のプル型の行動、ユーザー生成コンテンツ(UGC)がさらに重要な役割を果たす中、新型コロナウイルスの感染拡大の結果、世界中に広がりつつあるデジタライゼーションの影響に、マーケターは論理的に対応していかなくてはならない。
利益至上主義の非倫理的な行動により、マーケティングへの「信頼」が欠如している。一方市場で、アマゾンは顧客が一度も実物を見ていない商品を配送していることからもわかるように、信用なくして「人間である」顧客との有意義な関係性をつくるのはもはや不可能だ。
また、ドイツのメフェルト教授が言うように、マーケティングは「社内の一部門」なだけでなく、「あらゆる実務領域を市場志向で束ねる企業統治機能」であることが見失われている。
顧客と企業双方のメリットの最大化は、H2Hマーケティングとより高いパーパス(存在意義)の追求で実現できよう。H2H企業は、サプライヤーとともに成長し、顧客、従業員、地域社会と情緒的な絆で結ばれた「愛される企業」だ。
かれらはサステナビリティ思考をもちつつ、直接的なインパクトを持つ消費者、顧客、従業員、間接的なインパクトをもつ政府、メディア、NGO、実現要因インパクトをもつサプライヤー、投資家、コミュニティという、「すべての利害関係者のメリットを最大化」させようとする。
H2Hマーケティングによって、現在支配的な自己中心的で消費志向のマインドセットを変え、マーケティングの人間的な側面を再活性化していこう。
H2Hマーケティングは、デザイン思考、サービス・ドミナント・ロジック(S-DL:Service Dominant Logic)、デジタライゼーションという3つの考え方を統合した理論フレームである。
デザイン思考は、顧客に関する深い洞察をベースとした思考法であり、革新を生む反復プロセスである。
S-DLは、グッズ(モノ)からサービスへというシフトのなかで、協働エコシステムで価値を共創するための理論基盤となる。
デジタライゼーションは単なるトレンドではなく、顧客やマーケターに新たな選択肢を提供するイネーブラー(実現支援者)である。
そして、これら概念的フレームワーク(H2Hマーケティングモデル)を実装するためのレイヤーとして、成功に導く前提条件となる「マインドセット(規範)」、戦略立案、調整、制御を担う「マネジメント(戦略)」、実務に落としこむ「プロセス(オペレーション)」の3つの要素がある。
以下、1つひとつ見ていこう。
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