人体は途方もない数の元素によって構成されている。
生命の基本単位は細胞で、細胞には、リボソーム、タンパク質、DNA、RNA、ミトコンドリアなど、その他たくさんの微細で謎めいた物質が詰まっている。そうした物質自体は“生きている”とはいえないし、細胞もただの小部屋としてそれらを収めているだけだ。しかしどういうわけか、こうした物質すべてをひとつに集めると生命が生まれる。その仕組みは現在の科学では説明がついていない。
注目すべきは、そこには“指揮者”がいないということだ。細胞の各成分は他の成分からの信号に反応し、ぶつかったり押し合ったりしているだけにみえる。しかしそうしたあらゆる動きが、細胞内だけでなく全身でみても円滑な協調行動をつくりだしているのだ。
人体はよく機械にたとえられるが、機械よりはるかに優れていると言ってよい。定期修理や予備部品の取りつけなしで1日24時間、数十年間にわたって働き続け、わずかな燃料で稼働し、柔らかく、それなりに美しい。熱心に生殖に励み、冗談を言うことも、誰かや何かに愛情を感じることもできる。
人体はタフで寛容でもある。ジャンクフードを口に放り込み、煌々と光るディスプレイの前でだらだら過ごすことも許してくれる。心臓発作を起こすことはほとんどないし、喫煙者でさえ6人に5人は肺がんにならない。毎日、あなたの細胞の約5個ががん化していると推定されるが、免疫系がそれをすかさず殺してくれる。わたしたちの体は、ほぼ休みなく、ほぼ完璧な協力態勢で働いてくれる、37兆2000億個の細胞から成る宇宙なのである。
ただし、人体は決して完璧ではない。顎が小さすぎるせいで親知らずが収まらないし、骨盤を小さくしすぎたから、他の動物に比べて出産には耐えがたい痛みが生じる。それでも、わたしたちがいくつかの弱点に打ち負かされずに生き延びてきたことは奇跡だ。あなたは、30億年にわたる進化が微調整を積み重ねた結果、いまこの形で生きているのだ。
皮膚はおそらく、人体で“最も融通の利く”器官である。中身を保持し、悪いものを締め出すことで体を守り、打撃を和らげ、ヒトに快感と温かさと痛みをもたらし、日光から体を守り、自ら修復もする。加えて、外観の美しさの源でもある。
皮膚の機能のなかでも、汗腺の果たす役割は非常に重要だ。汗をかいて体の余分な熱をすばやく放散することで、最も温度に敏感な器官である脳を守っている。わたしたちの体は生きた“エアコン”のようなものなのだ。
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