認知症世界の歩き方
認知症世界の歩き方
著者
認知症世界の歩き方
出版社
出版日
2021年09月21日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

認知症についての情報は、調べれば豊富に手に入る。しかし、その中に、認知症を抱える当事者の視点で語られたものはどれだけあるだろうか。

著者の筧裕介氏は、認知症にまつわる情報が、医療従事者や介護者からの視点のものに偏り、肝心の当事者の視点が欠けていることに問題意識を持っている。本書は、認知症の当事者視点の情報を発信することを目的に、約100名の当事者へのインタビューをもとに作成されたものだ。認知症を抱える人の気持ちや困りごとが、「記憶をなくすミステリーバス」、「出口にたどりつかない服の袖トンネル」など、旅の難所として旅行記風にまとめられており、自分がその世界の旅人となることで、認知症を自分ごととして理解することができる。

著者は、同じ認知症の症状でも、その背景にあるトラブルは一人ひとり異なるのだと指摘する。本書では、困りごとそのものだけでなく、その背景にひそむ認知機能の障害を細かく分類し、それに応じた対応を紹介している。その人の状態にあわせた生活の工夫を考える際には大きな助けとなることだろう。

認知症の世界は、自分と関係のない世界ではない。本書によれば、それは、少し先の自分、あるいは、自分の大切な人が生きることになる世界だ。その世界では誰もが旅の初心者である。知らない国へ海外旅行に行くような気持ちで、このガイドブックでいつか出発する旅の予習をしておこう。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

筧裕介(かけい ゆうすけ)
issue+design代表、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任教授。1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京工業大学大学院修了。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。2008年ソーシャルデザインプロジェクトissue+designを設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。日本計画行政学会・学会奨励賞、グッドデザイン賞BEST100、竹尾デザイン賞、カンヌライオンズ(仏)、D&AD(英)、他受賞多数。著書に『持続可能な地域のつくり方』『ソーシャルデザイン実践ガイド』『人口減少×デザイン』(単著)、『地域を変えるデザイン』『震災のためにデザインは何が可能か』(共著・監修)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    認知症を知るうえでは、医療従事者や介護者からの視点だけではなく、当事者の視点からの情報が欠かせない。当事者の視点を知ることが、認知症を抱える人の「生きづらさ」の解消へとつながる。
  • 要点
    2
    認知症とは、認知機能が働きにくくなったために生活に困難を抱えている状態を指す。同じ「困りごと」に悩んでいても、その背景にある問題が同じとは限らない。「認知症」とひとくくりにせず、一人ひとり違うものとしてとらえることが重要である。
  • 要点
    3
    認知症は、知らない誰かの問題ではなく、「少し先の未来の自分」、あるいは「自分の大切な家族」の問題である。

要約

【必読ポイント!】「当事者の視点」で認知症を知ること

認知症の生きづらさ

認知症のある人の心と身体にはどのような問題が起きていて、いつ、どこで、どのような状況で生活しづらさを感じているのか。こうしたことを調べようとしても、見つかる情報は医療従事者や介護者視点で症状を説明したもので、当事者視点で「困りごと」を語った情報はほとんど見つからない。当事者視点の欠落が、認知症に関する知識やイメージの偏りを生み、本人と周囲の生きづらさにつながっている。「困っていることがあるのにうまく説明できない」という当事者の気持ちと、「本人に何が起きているのかわからないから、どうすればいいのかわからない」という周りの人の気持ちのすれ違いを少しでもなくすことが、本書の目的である。

本書は認知症のある人にインタビューを重ね、蓄積した「語り」をもとに構成されている。認知症のある人が経験する出来事を、「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、身近でわかりやすいストーリーとして紹介する。

認知症は一人ひとり違う
kazuma seki/gettyimages

認知症とは、「認知機能が働きにくくなったために、生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」を指す。認知機能とは、「ある対象を目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官でとらえ、それが何であるかを解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働き」だ。

認知症のある人が入浴を嫌がるという話はよく聞く。しかし、その背景となる認知機能のトラブルは人それぞれだ。温度感覚のトラブルでお湯が極度に熱く感じるのかもしれないし、空間認識のトラブルで服の着脱が困難であったり、時間認識のトラブルで入浴したばかりだと思っているのかもしれない。「入浴を嫌がる」という1つのシーンをとっても、その人が抱える心身機能障害や生活習慣、住環境によって、なぜ、どんなことに困難を感じるかは異なる。「認知症」とひとくくりにしないことが重要だ。同じ困りごとでも、その背景にある理由によって対応の仕方は異なる。

認知症は、少なくとも現時点では治すことができない。しかし、「本人の視点」から認知症を学び、生活の困りごとの背景にある理由を知れば、認知症との付き合い方や周りの環境を変えることができる。「病」を診て「症状」に対処する医療・介護視点のアプローチだけでなく、「人」を見て「生活」をともに作り直すアプローチもあるのだ。超高齢社会の日本で、認知症のある人が生きている世界を想像できる人が増えることで、良い変化があるはずだ。

本書に登場するのは、架空の主人公でも、知らない誰かでもなく、「少し先の未来のあなた」、あるいは「あなたの大切な家族」である。

記憶と五感のトラブル

乗り込むと記憶を失う「ミステリーバス」
yangwenshuang /gettyimages

あなたはこれから認知症世界を旅していく。この世界の玄関口には、不思議なバス、「ミステリーバス」の停留所がある。

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要約公開日 2022.01.16
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