文字を書いたりハサミを使ったりするときに優先的に使う手を「利き手」という。手だけではなく、ボールが蹴りやすい「利き足」や、望遠鏡のような小さい穴を覗きやすい「利き目」、電話をあてる「利き耳」なども存在する。
こうした「利き○○」が生まれたのは、人間が二足歩行するようになってからのことだと考えられている。両手が自由に使えるようになり、細かい作業を左右の手で分担できるようになったのだ。
その結果人間は、脳の負担を減らせるようになった。襲われたときとっさに右手でかばうなど、使う手の優先順位が決まっていると、ムダな動きが減って危険を回避しやすくなるからだ。
動作の機能を分担しておけば、脳はいちいち指令を出さなくてすみ、処理が早くなる。体のさまざまな部位に「利き○○」が存在するのは、処理速度を速くするためなのだ。
人間の脳には1000億個以上の神経細胞があり、同じような機能を持つ細胞同士が集まって「基地」を作っている。著者はこの基地を住所に見立てて、「脳番地」を割り振った。
脳番地は全部でおよそ120あり、大きく分けると「思考系」「感情系」「伝達系」「運動系」「聴覚系」「視覚系」「理解系」「記憶系」の8つになる。1つの動きに対して1つの脳番地だけが対応しているわけではなく、2つ以上の脳番地が連携して働くこともある。たとえば人と会話をする場面では、声を聞くための「聴覚系脳番地」や、言葉を理解するための「理解系脳番地」などが連携して働く。
8つの脳番地は左右の脳にほぼ均等にまたがっているが、同じ動作でも、右脳と左脳では担う役割が異なる。「感情系脳番地」では、左脳は自分の感情や意思を作り出し、右脳は自分以外の人の感情を読み取る働きをする。「視覚系脳番地」では、左脳が文字や文章などを読み取り、右脳が絵や写真、映像などを処理している。
一方、左右で同じ動きをするのが「運動系脳番地」だ。右利きの人は左脳の運動系脳番地が、左利きの人は右脳の運動系脳番地が発達している。つまり、左手を使うと右脳が、右手を使うと左脳が発達するのである。
右利き優先社会において、右利きの人は「利き手」に気を配る習慣がない。一方で左利きは、字を書いたりハサミを使ったりするたびに「みんなは右手でああやってるけど、左手ではどうしたらいいか」を常に意識しながら育っている。
両手を意識することは、脳の活性化につながる。手を動かすときに「右手を使っている」「左手を使っている」と注意を向けると、運動系や感覚系などさまざまな脳番地が刺激されるのだ。
私たちの大脳の3分の1は、両手と指をコントロールするために使われている。使っている手に気を配りつつ手や指をよく使うことで、脳はどんどん活性化していく。両手を常に気にかけている左利きは、知らず知らずのうちに脳を活性化させているのである。
左利きの脳の使い方は独特だ。それによって生まれる個性のひとつが「直感」である。
多くの人は「直感は単なる思いつきであり、当たり外れがあるもの」と考え、十分には活かしていない。しかし近年の研究では、直感に従って決断すると、論理的に考えるよりもよい結果が出ることがわかっている。「直感」とは、膨大な情報を蓄えた脳のデータベースから、精度が高く、より正確な情報を選択して導き出された結果だと言えるだろう。
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