本書の著者は、アマゾンジャパンで新規事業の立ち上げに従事していた。そんな著者がアマゾンでイノベーションが生まれる理由をシンプルに表現すれば、「ベンチャー起業家の環境×大企業のスケール-大企業の落とし穴=最高のイノベーション創出環境」となる。本書では、この方程式を成立させている、アマゾンの「仕組み・プラクティス(習慣行動)」を分解して体系化することで、「アマゾン・イノベーション・メカニズム」として示している。
イノベーションを起こさせる仕組みや環境こそが、他社にないアマゾンの優位性となる「コア・コンピタンス」である――それが著者の見解だ。このアマゾン・イノベーション・メカニズムは、日本企業でも十分再現可能である。
アマゾンでは、イノベーションを創出するための思考プロセスを「ワーキング・バックワード(Working backwards)」と呼ぶ。逆方向に思考するという意味だが、つまり「顧客ニーズからスタートしてそのソリューションとなる製品・サービスを発案する」ことを指す。
その中核を担うツールが「PR/FAQ」と呼ばれる企画書だ。アマゾンで新たな製品・サービスを提案する際には、必ずこのフォーマットが用いられる。PRはプレスリリース、FAQはよくある質問や想定問答のことだ。
一般的にプレスリリースは、サービスや製品を世に送り出す前に、自社のサービスや製品を宣伝するために出される。FAQも、サービスや製品の情報がそろった後に、報道関係者や消費者から質問されそうな内容を想定して用意するものだ。一方アマゾンでは、新サービスや新製品を企画するタイミングでこれらを作っている。
アマゾンのPR/FAQには、主に3点の要素が盛り込まれる。それは「どのようなサービス・製品が市場に導入されるのか」「使用する人にとってどんな利点があるのか」「実際使ってみた人のフィードバックはどうか」だ。企画書を作るプロセスを通じて、企画立案者は顧客視点に立って企画をブラッシュアップすることができる。そして提出されたPR/FAQを検討する際、チーム全員の視点もより顧客中心のものとなっていく。
アマゾンでは、誰もがPR/FAQを作れるように工夫されている。まず、ほとんどの社員がPR/FAQを書くトレーニングを受けていること。そしてそもそも、簡単に作成できるようなフォーマットであることだ。分量としてはA4用紙で1ページほどの長さだ。数時間で書き上げることも決して難しくはない。
アマゾンは、こうして提案のコストを下げることでイノベーションを起こしやすくしている。もし提案フォーマットがもっと複雑ならば、提出される企画の数は減ってしまうだろう。
会議資料にも、アマゾンならではのルールがある。
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