他の生き物と違って、人間は永遠の生を求める。この不死への意志こそが、「人類の業績の基盤であり、宗教の源泉、哲学の着想の起源、都市の創造者、芸術の背後にある衝動」でもある。その成果こそが文明だ。
「どのようにして不死を達成するか」についての物語は多様に見えるが、その根底には4つの基本形態しかない。「生き残り」「蘇り」「霊魂」「遺産(レガシー)」だ。これらを4つの「不死のシナリオ」と呼ぼう。
これらの道を切り拓く努力が、文明や文化、すなわち「現在のような人間の存在の仕方を定めている制度や儀礼や信念」をどのようにもたらしたか。またどのシナリオが永遠の生につながっているか。これらを順に取り上げ、検討していく。
人類は生き残りをとても得意とするようになり、哺乳類の中でも例外的な長寿を享受している。この不死への意志は動物的な衝動のレベルをはるかに超え、人類を動物から隔てさせるものであり続けてきた。
人類を人類ならしめているのは、もちろん大きな脳である。脳による強力な知性のおかげで、自分もいつの日か死ぬということを客観的には理解できる。一方で、観察者、思考する主体としての自分が存在しない状態そのものを考えることはできない。自分は死ぬはずがないと信じている。これを著者は「死のパラドックス」と呼ぶ。
このパラドックスを解決するために創出されるのが不死のシナリオである。
万里の長城の建設と不老不死の霊薬の獲得は、紀元前の広大な中国を初めて統一した秦の始皇帝の中では一直線につながっている。秦の王は世界最強の人間になったからこそ「死のパラドックス」を過剰に意識し、「生き残りのシナリオ」、永遠の生命を信じていた。
万里の長城は北の国境沿いに1万キロメートル続く城壁だ。死につながるすべてから自分の版図を守るために建設されたこの血と汗の防壁は、何十万人という人の命を犠牲にして造られた。
不老不死の霊薬を手に入れることができると確信していた皇帝は、一人の賢者・徐福の導きで、不老不死の人々が暮らすという黄海の島へ遠征隊を派遣する。一群を率いた賢者は二度と中国に戻ってこなかった。ある伝承では、その賢者は日本にたどりついて文明をもたらし、その偉業の極みとして不老不死の霊薬を見つけたという。死を打ち破ることは、文明生活が約束するものとされたのだ。
多くの文化は、この文明の創設神話のパターンを繰り返している。文明は、死すべき者として創造された私たちを救い出す。しかし、死の恐怖を免れたいと願う大半の人は、永遠に生きることに耐えられない。
科学により「進歩」した文明をもつ現代社会は、「生き残り」について特殊化した解決方法を提供する。死を寄せつけぬ高度な防衛手段を開発する「工学アプローチ」の追究だ。現在、世界保健機関が認めている疾患は1万2000を超え、その細かな分類によって細やかな治療が可能となる。実際に寿命は格段に長くなっており、「工学アプローチ」はうまくいっているようだ。
しかし科学にはティトノス問題というアンチテーゼもある。
3,400冊以上の要約が楽しめる