予想外の出来事や偶然の出会いが未来を変えることがある。例えばブドウ球菌の研究者であるアレクサンダー・フレミングは、ある日、研究室に放置されていたカビの生えたペトリ皿からペニシリンを発見した。放置されていたペトリ皿を捨てず、詳細に調べたことで、数百万人の命を救う薬が生まれたのだ。こうした「予想外の事態での積極的な判断がもたらした、思いがけない幸運な結果」のことをセレンディピティと呼ぶ。
セレンディピティは日常生活のなかにあふれている。著者がこれまでの恋人と出会ったのは、たいていコーヒーショップや空港だった。コーヒーをこぼしてしまったり、席を外す間パソコンを見ていてほしいと頼んだりしたことをきっかけに会話が始まったのだ。
あなたに恋人がいるとしたら、相手との出会いを振り返ってみよう。出会いが「たまたま」だったとしても、おそらくまったくの偶然ではないだろう。相手との相性の良さや共感できる部分、共通の価値観などに気づき、関係を築くために努力したのは、ほかでもないあなただ。それは単なる偶然ではなく、セレンディピティである。
セレンディピティは、私たちの身に「起こる」ことではない。セレンディピティにはいくつかの特徴があり、その一つひとつは意識的に育むことのできるものだ。セレンディピティの力をより深く理解するために、セレンディピティの3つの特徴を見ていこう。
(1)ある人に予想外の出来事が起こる。これを「セレンディピティ・トリガー」と呼ぶ。
(2)その人がトリガーを別のことと結びつける。点と点を結びつけ、偶然のような出来事や出会いに価値があるかもしれないと気づく。これを「バイソシエーション」という。
(3)実現した価値は完全に予期せぬものである。
重要なのは、偶然の発見を理解し、複数の情報の間につながりを見つけて、それらをクリエイティブに結びつけていく能力を持った人の存在だ。セレンディピティ・トリガーに気づかなかったり、セレンディピティ・トリガーが何と結びつくのかわからなかったりすれば、セレンディピティの機会は失われる。
セレンディピティは偶然に起こるもので、予測するのは不可能だ。ただし、予想外の出来事の価値に気づき、活用する能力(セレンディピティ・マインドセット)は伸ばすことができる。
セレンディピティの最大の障害は、バイアス(思考の偏り)だ。バイアスを完全に排除するのは難しいが、バイアスを自覚し、その影響を和らげて、別の考えを受け入れようと努力することはできる。セレンディピティの妨げとなる基本的なバイアスは、次の4つだ。
(1)予想外の要因の過小評価
私たちにはそれぞれが考える「ふつう」、つまり偏った視点があるため、「予想していたこと」ばかり目に入ってしまうものだ。だが過去を振り返ると、経歴からパートナーとの出会いまで、予想外の要因が人生のかなりの部分を形づくっていることに気づくだろう。予想外の出来事へのオープンな姿勢は、運を引き寄せ、セレンディピティを経験するカギとなる。
(2)多数派への同調による自己規制
群れの心理はセレンディピティを阻害する。多数派の意見を妄信するのではなく、常に疑問を抱こう。自分の企画や発見が組織の意向や常識に合わないことを恐れ、切り捨ててしまってはいけない。
(3)事後合理化
私たちは意見やアイデアを他人と共有する際、それが思いがけないところからもたらされたとは言いづらく、あたかも意図したストーリーであったかのように語ってしまうことがある。だがそうしてセレンディピティの痕跡を消し去ってしまうと、セレンディピティを再びつかむ機会が失われてしまう。
(4)機能的固定化
あるツールが特定の方法で使われているのを見慣れていると、それを別の方法で使うという発想は生まれにくい。しかしクリエイティビティが最も高まるのは、まったく新しいアプローチを活用したときだ。アクション映画のヒーローが、身近な小物を武器にして相手を倒すシーンを思い出してみよう。
予想外の出来事に気づけるかどうかは、注意力、つまり「感度」にかかっている。
3,400冊以上の要約が楽しめる