私たちがよく思い浮かべる「自己肯定感の高い場面」は、テストでいい点を取った、給料が上がった、上司や家族に褒めてもらったなどといったものだろう。要するに、他人との比較によって高い評価を受ける場面である。
これらは「外発的な報酬」と呼ばれる。自分が勉強や仕事をすること自体で得られる「内発的」な満足感とは対照的に、結果としてついてくる「おまけ」の報酬だ。外発的な報酬は短期的には自己肯定感を高めてくれるが、長期的に依存すると心身に悪影響を及ぼす。
例えば、お金による動機付けの強い人は、長期的には総合的な自己肯定感が低くなりがちで、うつや不安を抱えやすい。ステータスや見た目にこだわる場合も同様で、頭痛や肩こりなどといった身体的な問題が起こったり、人間関係の問題が生じたりすることがある。外発的な報酬によって自己肯定感が上がっても、長期的にみると逆効果なのだ。
ネガティブな気持ちを無理やり抑え込んだり、忘れようとしたりするのも逆効果だ。ハーバード大学などの研究では、自分の気持ちを抑え込みがちな人は死亡リスクが30%高まり、癌になる確率も70%上がると報告されている。
では、求めるべき自己肯定感とはどのようなものか。それは「現実の自分をありがたく思う気持ち」である。この定義には、「自己受容」と「自己価値」という2つの心理学のコンセプトが組み合わされている。
「自己受容」とは、ありのままの自分をそのまま受け入れる力をいう。「自己受容」ができる人は、精神的に安定していて、幸福感が高いことがわかっている。
「自己価値」とは、現実の自分を「ありがたく」思う気持ちで、「自尊心」にも似ている。例えば「仕事でヘマをしてしまったが、また頑張ろう。立ち直りの早い自分のメンタルはありがたい」「成績が悪くスキルもないが、目標に向かってもくもくと取り組む自分が誇らしい」といった具合だ。自己価値を感じている人はメンタルが強く、勉強や仕事の業績も上がるという報告がある。
「自尊心の高い人はナルシストではないか?」という意見もあるだろう。しかし最近では、ナルシストと自尊心の高い人はちがうという見方が主流だ。
ナルシストは自分が他人より特別で優れていると感じる人で、それに応じた承認や尊敬を得ようとする。一方、自尊心の高い人は、自分が自分であること自体に価値を認めており、他人との比較や優越感によって承認欲求を満たそうとしない。これが両者の決定的な違いである。
ナルシストは人を見下したり横柄な態度をとったりするため、人間関係でつまずきやすい。一方、自尊心の高い人は往々にして幸福感が高く、心身ともに健康であることが多い。
ヘコんだとき、どう心を立て直すか。この答えの一つが「自己肯定理論」だ。自己肯定理論の中心にあるのは「ヘコみの外で自己肯定する」という考え方である。
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