部下が成果を上げられていないとき、上司は「根性が足りない」「仕事に対する情熱が欠如している」と、その原因を本人の「心」に求めがちだ。だが、そう考えている限り改善は見込めない。問題解決のカギは「心」ではなく「行動」にある。
著者が提唱する「行動科学マネジメント」では、まず対象となる人の「行動」を観察・分析する。観察・分析の結果、相手が望ましい行動をしていることがわかれば、その行動をさらに実行し続けるように仕向ける。もし間違っていれば、正しい行動に置き換えるための仕掛けを施す。
心理学や精神医学などの専門知識を持たない多忙な上司が、部下や後輩の「心」を正すのは難しいものだ。それよりもまずは「行動」に目を向け、「行動」を改善させるほうがずっと簡単である。
「教える」とは、相手から“望ましい行動”を引き出す行為だ。うまく「教える」ためには、思いついたことをそのまま口にするのではなく、教える内容を「知識」と「技術」に振り分けることが大切だ。
たとえば、ボーリング初心者にボーリングを教える場合。「知識」にあたるのは、投球のマナーやゲームの基本ルール、ボールの選び方、ボールの回転と軌道の関係性、スコア表の記号の意味などだ。一方、教えるべき「技術」には、ボールの持ち方や助走の仕方、投球フォーム、ボールのコントロール法などが該当する。知識は聞かれたら答えられること、技術はやろうとすればできることと考えればいいだろう。
教える内容を「知識」と「技術」に分けると、指導手順の決定や、教えるべき範囲の見極めがしやすくなる。また指導がうまくいかなかったときにも、「技術が未熟なのか、それとも知識が不足しているのか」という観点からチェックできる。その結果、原因が見つけやすくなり、補強すべきポイントが見つかるはずだ。
どんな業種・職種の仕事も、多くの「行動」から構成されている。教える行動を一つひとつ分解して、時系列で書き出してみよう。そして、子どもを初めておつかいに行かせるときのように、やるべきことを細かくかみ砕いて、わかりやすく教えるようにする。
分解の対象にするのは、その仕事で優れた成果を出している社員の行動だ。たとえば営業なら、TOPセールスの行動を書き出してみる。朝は何時に出社して始業時間までの間に何をしているか。顧客に電話をかけるとき、最初に何と挨拶しているか。担当者が不在のときはどんな伝言を残しているか。営業用カバンには何を入れているか。アポイントの時間より何分早く訪問先に到着しているか。名刺を渡しながら喋る内容はどんなものか。初対面の担当者に対して最初にどんな話題を投げかけているか。訪問の記録はどのように残しているか……。TOPセールスの行動を完璧に真似るには、これくらい細かく分解しなければならない。
そうやって書き出したものは、その仕事の「チェックリスト」として使える。上司は、リストを参照しながら「ここはよくできているよ。あとはここを重点的に練習しよう」と指導すればいい。
チェックリストができたら、
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