「向き合い、受け入れ、対処して、手放す」。これは台湾のある仏教団体の創建者・聖厳法師が説いた物事に臨むときの心構えだ。オードリー・タンの問題解決プロセスの根底にも、この心構えがある。
彼女の基本スタンスは、すべての人の側に立ち、相手の話を真剣に聴くことである。もしも自分の考えと異なる意見が出てきたなら、自らの考えを事実に即して柔軟に修正していく。
オードリーの問題解決のアプローチは法令討議プラットフォーム「vTaiwan」にも活かされている。これは官民ともに各当事者がオープンな場で討論できるようにオードリーが立ち上げたものだ。
そこはすべてがオープンな「安全な空間」である。討論を記録に残すため、あとから議論に参加できる。全体のコンセンサスを得た上で意思決定する問題解決モデルにより、最大公約数的に各当事者の意見やアイデアを反映できるようになっているのだ。
相手の話に真摯に耳を傾けること、つまり「傾聴」が対話の最初のステップであり、問題解決の大前提となる。とにかく、相手が話し終わらないうちに口を挟んではいけない。人は自分の価値観で相手の話を判断する傾向がある。そのため、人の話をいい加減に聞いていると、理解するどころか対立さえ生みかねない。
例えば、相手が「昨日の夜、よく眠れなかったんだ」といったとしよう。そんなときオードリーは、エンパシー(知性や経験に基づいた理解)によって相手のコンディションが万全でないことを感じ取る。そして、シンパシー(傾聴による相手の気持ちの理解)を持って相手の話を最後まで聞き、ゆっくりした口調で対応する。
「自分が言ったこと」と「相手が聞いたこと」がすれ違うことは往々にしてあるものだ。そうしたミスコミュニケーションを回避するために、オードリーは「傾聴」を重視している。
オードリーは「多重視点」の大切さにふれている。ポイントは「多重視点」であって「多様な視点」ではないということだ。
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