インセンティヴが「どう働くか」を理解しておかないと、望んだ効果が出ないばかりか裏目に出てしまうことがある。
イスラエルの保育園で筆者たちが行った罰金制度の実験は、それを端的に示している。保育園のお迎えに10分以上遅れたら
一律約3ドルの罰金を払うという仕組みを導入すると、罰金の狙いとは逆に、お迎えに遅れる親が大幅に増えたのだ。
たった3ドルが遅刻の価格だと決められたことで、先生たちの残業は、駐車場代やお菓子代と同列のものになってしまった。中途半端な額の罰金を科すのは良心に訴えるよりもずっと効果が薄いのだ。
募金集めにおいても、お金というインセンティヴが逆効果になるという現象が見られた。筆者たちは、慈善団体のための募金を集める生徒たちを3つのグループに分けて、こんな実験を行った。最初のグループには「募金集めの意義を説いて、ボーナスは与えない」、2つ目のグループには「集めたお金の1%が貰える」、3つ目のグループには「集めたお金の10%が貰える」という設定にした。その結果、募金を一番集めたのは最初のグループで、その次は3つ目のグループだった。
保育園の罰金制度と同様のしくみで、お金が、高い志を押しのけてしまったのだ。誰かにやる気を出させるには、その相手がもともともっている「いい結果を出そう」というやる気を、インセンティヴが押しのけてしまわないかどうかを考えなくてはいけない。
インセンティヴを効果的に使うには、わずかではなく、十分大きなインセンティヴを提供して「やれば報われる」と相手に感じさせなくてはいけない。お金は、全く支払わないか、たっぷり支払うか、そのどちらかでなければ、人は動かせない。
残念なことだが、アメリカで高い社会的地位を占めているのは男性が多い。女性は経営層の20%しか占めておらず、男性と同じ仕事をしても男性より給料が安いのが現状だ。こうした労働市場における性別格差のどれだけが、文化的に作られたものなのだろうか。
筆者たちは、女性がガラスの天井を突き破れないのは、「女性の多くが、相対評価で給料が決まる競争の厳しい仕事を避けがちだから」だという仮説を立てた。競争によるインセンティヴを好むか好まないかで、男女間格差が説明できると考えたのだ。
実際、とある求人広告の実験では、「給料が同僚との相対評価で決まる」という競争を求められる仕事に応募する女性の割合は、男性より70%も低かった。
では、子ども時代から男女差はあるのだろうか。
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