「長距離遠征した」、「何時間行列した」、「年間何杯食べた」。
ラーメン好きはこういった自慢をする人が多いが、カレー好きにはこういった自慢をする人は少ない。ラーメンは「○○エリア人気ランキング」といったメディアでの紹介が多い一方、カレーは「芸能人○○が通う店」といった切り口が目立つ。
著者は以前、仲の良いカレーの好きなラーメン店の店主に「どうしてカレー屋さんの内装はシャレているのですか」と質問されたことがある。イスやカーテンまでセンスに満ちあふれ、飲食店として羨ましいということだった。そのとき、著者は「ラーメンは体育会系、カレーは文化部系」という考えがひらめいた。順位やタイムを競い切磋琢磨で優勝を目指す体育会系と、自分だけの時間や個性を大事にする文化部系。ラーメンはライバルと切磋琢磨して進歩していく。一方、カレーは個性を大事にして内装や接客、ユニフォームで個々の店が独自路線を突き進む。
著者がラーメン店主に抱く印象は、仲間意識が強くて負けず嫌い、人気でモテる同級生といったイメージである。
青森の津軽、大阪の高井田、福岡の博多長浜の各地にある老舗でラーメンを食べて著者は気付いた。それは、あっさりとしたスープ、独自の食感の麺、しょっぱめのチャーシューが3軒に共通していたのである。都会の味に慣れた人には物足りないと感じるかもしれないが、「醤油スープに入った小麦(炭水化物)を、肉(タンパク質)をおかずに食べる」といった食の原点のようなラーメンだ。
この3軒の創業を調べたところ、創業は終戦10年後の1955年ごろに集中していた。食べ物に困る、栄養不足に悩む時代に、「少しでも栄養があって美味しいものを」と考え、つくられたラーメンである。他地域でもこれは同様で、老舗のラーメンほど、このような特徴がみられる。これらのラーメンはグルメ的な趣味ではなく、地元における日常の食事そのものなのである。
冒頭の3軒のラーメンはどれもクドさがなく、すっきりと軽い。年齢や年代を問わず、頻繁に食べられる。
他方、濃厚タイプのラーメンが定着している地域もある。この場合、ラーメンとは異なる食文化が、先に根付いているのではないかとの仮説が立てられる。
ラーメンには業界のレアな用語集が山のようにある。
出来上がったラーメンが席に到着することを「着丼」と呼び、ラーメンを続けざまに食べることは「連食」、3、4軒ハシゴする際には「3連食」「4連食」などと言う。店内で2杯完食することを「ダブ完」(ダブル完食)と呼び、「汁完」はスープまで飲み干すことを指す。
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