組織の未来の成功を目指し、重要な戦略に注意を払うためには、自分や組織にふさわしくないことに「ノー」と言うことは重要だ。そうしないと、組織のミッションを、雑多な活動にかき乱されてしまう。
ヘッセルバイン氏がガールスカウト米国連盟のCEOを務めていたとき、企業からよく「甘い話」をもちかけられたそうだ。ガールスカウトには家々をまわってクッキーを売る伝統があったので、こうした企業は少女たちを宣伝活動に使えると思ったのだ。連盟には、クッキーと一緒に自社のパンフレットを配ってくれるなら高額の報奨を払うという申し出が多くあった。
しかし、少女たちに営利企業の販促資料を配らせることは、ガールスカウトのミッションとは何ら関係のないことだ。クッキー販売は、少女たちがスキルを身につけることを目的とした、ガールスカウトのプログラムなのだ。資金面ではたしかに魅力的だが、実際には少女たちを利用するような申し出だと判断し、ヘッセルバイン氏は全て断った。
ガールスカウトのミッションを、「少女のための、ひとつの偉大な運動」とヘッセルバイン氏は呼んだ。であるからして、このような申し出に対して、まず問わなくてはならないのは、「少女たちの成長に寄与するか」であるという。すると、どのような返事をするかはおのずと導き出されることになる。
ミッションに集中してさえいれば、魅力的に見えてもミッションに寄与しない申し出には、難なくノーと言うことができる。
ヘッセルバイン氏がCEOに就任した1976年、ガールスカウト米国連盟は、すべての少女のニーズに応えられるような、現代的なプログラムをつくる必要性に迫られていた。急速に変化してゆく現代世界には、麻薬や10代の妊娠・出産など、少女の健全な成長を妨げる問題があふれていた。しかし、ガールスカウトの少女たちは、いまだに12年前のハンドブックとプログラム教材を使っていた。
そこで、1年間で4種類のハンドブックを制作すること、また6歳から17歳の少女を年齢によって4つの部門に分け、それぞれについて新しいプログラムをつくることを、ヘッセルバイン氏は宣言した。当初、そんな短期間で何ができるものかと、懐疑的に思うメンバーが多数いたが、ヘッセルバイン氏は自らのことばを守り、それを成し遂げた。
また、ガールスカウト米国連盟では8年連続で会員が減っていた。特に、人種的・民族的マイノリティに属するメンバーは、全体のわずか5%であり、米国の人口構成比と著しく異なった。そこで、人種や文化を問わず、移民を含め、すべての少女(ヨーロッパ系、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、ネイティブアメリカン、イヌイットなど)が自分の居場所を見出せるガールスカウトを目指して、パンフレットやポスターが作られた。結果、マイノリティ集団に属するメンバーは3倍以上に増え、当時減少傾向にあった会員数は上昇に転じ、会員数は225万人、スタッフは78万人となり、組織は大きく勢いを盛り返した。
これらが可能となったのも、改革にあたって「インクルージョン」を実践したからであった。つまり、
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