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「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る
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出版社
NewsPicksパブリッシング

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出版日
2022年04月27日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

社会に閉鎖的な雰囲気が漂っていると感じることはないだろうか。将来に希望が持てず、自分の人生に漠然とした不安を抱く方も多いだろう。低成長にあえぐ日本にいれば、なおさらそんな感情を強く持つ方も多いかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の不安をより一層強く掻き立てた。平和だったはずの世界は、戦争が起こる事態に陥っている。

本書では、オープン性がもつすばらしさについて論述するとともに、失われつつあるオープン性に警鐘を鳴らす。オープンな交換、門戸、精神は、人類を生態系の頂点にたたせ、産業革命を通じて所得を爆発的に拡大させた。しかし、オープン性がもたらした文明はクローズドな社会との軋轢の中で何度も滅びてきた。

いままさに、その歴史が繰り返されるかもしれない危機的な状況にある。社会の不安は人びとを内的な方向に向かわせ、異なるものを敵とみなし、専制的で「強い」リーダーを求めさせる。実際、自国を第一に考える閉鎖的な指導者が目立っている。

本書によると、オープン性を守るものもまた、オープン性だという。オープンであるからこそ、多彩な方法を試し、改善することができる。歴史を学び、経験や知識を活用することもできるだろう。社会をオープンにするには、私たち自身をオープンにすることが重要なのだ。社会が閉鎖的な状況にある今こそ本書を一読し、オープンな社会の維持のために一人ひとりができることを考えるきっかけとしていただきたい。

ライター画像
香川大輔

著者

ヨハン・ノルベリ(Johan Norberg)
歴史学者。米ワシントンDC拠点のシンクタンク、ケイトー研究所シニアフェロー。
1973年スウェーデン・ストックホルム生まれ。ストックホルム大学にて歴史学の修士号を取得。著作は25か国語に翻訳され、『進歩:人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)は各国で高い評価を獲得した。スティーブン・ピンカー、マット・リドレー、ハンス・ロスリングらと並んで、歴史学、経済学、統計学、進化生物学など幅広い領域の最新知見をもとに「楽観的な未来」を構想する、現代を代表するビッグ・シンカーの1人。 本書『OPEN』は、前著『進歩』に続いて「エコノミスト」誌ブック・オブ・ザ・イヤー賞を受賞した。

本書の要点

  • 要点
    1
    人類は進化の過程で、「協力がうまい生物になる変化」を好んだ。自由移民の効果は交易より大きく、所得を爆発的に増加させる力を持つ。
  • 要点
    2
    人間は常に世界を「オレたち」と「ヤツら」に分けようとする。他の集団を怪しいと思わせ、偏見と暴力が煽られる機会を与える。
  • 要点
    3
    オープンな社会は、閉じた社会より安定している。経験し、学習し、成長を続けるオープン性に対して、自分の心を開いていこう。

要約

オープン性とは

交易の持つ力

人はなぜ交易するのか。交易は、自分が持っているどんなものでも、交換によって、欲しいものに変えてしまえる。自分たちが生産できるものを使って繁栄を遂げる方法でもある。「貧困国が豊かになり、富裕国がもっと豊かになる唯一の方法」だ。

歴史的に、人はどこでも交換を行ってきた。初めて見つかったホモ・サピエンスの化石は30万年前のものだが、同じ年代の出土品からは黒曜石が見つかっている。黒曜石は火山性の限られた場所でしか産出できないことから、輸送、交換、取引により入手した可能性が高い。

人類は進化の過程で、「協力がうまい生物になる変化」を好んだ。人間は、意図の共有が得意になった。遺伝的進化は世代を重ねる必要があるため遅々として進まないが、文化的進化は他人を真似ることで一瞬で起こる。「他人を真似るのは人間の本性」だ。

人口が増えれば、だれかが有益なアイデアや技術を思いつく可能性が高まるので、イノベーションは人口規模と相関関係にある。

20世紀後半には、アメリカの主導でオープンな経済秩序が再建され、中国やインドも閉鎖経済を世界に開放し始めた。しかし、貿易をめぐる新しい論争が生じて、アメリカでも保護主義的な動きが広がっている。その理由の一つが失業の問題だが、自由貿易の利得は、失業などによる損失の20倍も大きい。米国の雇用は中国ではなく、機械化による生産性向上に奪われている。

移民の持つ力
AndreyPopov/gettyimages

自由貿易よりさらに便益が高いのは、自由移民政策だろう。平均的な人物の物質的な富の多くは、世界のどこで働いているかに左右されるという推計もある。労働に対する報酬が最も高い国に自由に引っ越せるようになると、実質的に世界のGDPは倍増する。

しかし、労働力の移動には生身の人間と文化がついてくる。伝統的な西洋文化やアイデアを守り、衝突を避けるために、移民への反対の声は根強い。その「西洋文明」も雑種であり、アイデア、衝動、伝統のブレンドだ。私たち自身も混血であり、複数の移民の組み合わせだ。

人類は、よい気候や肥沃な土壌、伴侶を求め、飢餓や争いを避けるため、あるいは冒険心から常に移動し、言語や文字、調理法などのアイデアを伝えた。こうして、異なる視点、ノウハウ、技術の混合は、集団を強くした。

多様性に対してオープンだったことで、小集団を帝国にまで巨大化させた例は、ペルシャやローマ、中国、モンゴルなど複数ある。文化的征服まで含めるのであれば、現代のアメリカもその一例だ。

移民は文化などの違いから疑念と恐怖を引き起こしてきたが、それはかれらが社会に統合されるまでのことである。均質な文化は追い越される。遠くからの人々はアイデアの運び手であり、ルネサンスも文化の出会いとアイデアや信念の混じり合いによって生まれたのだ。

オープン性の喪失と崩壊
goldhafen/gettyimages

限られた世界観にとらわれず、他の観点から学ぶことは、知的進歩に不可欠である。科学が、できあがった神話を否定して世界を説明するには、自由な精神と探究心が必要だった。

その探求が最初に始まったのは古代ギリシャである。オープンな議論を通じて科学と哲学を発明したのだ。物理学者のシュレーディンガーによると、その背景には、帝国の支配下にない小さな国家の集合体で自由度が高く、交易を通じたアイデアの交換が盛んであり、中央集権的な宗教や特権聖職者階級がなく寛容だったことがある。この複数主義、交易、寛容性は、歴史上の知的イノベーションをほぼ総括できるアイデアだ。

しかし、多くの科学的発見や技術進歩は、ローマ陥落以降に忘れられた。その原因は、キリスト教による思想の独占である。ローマ帝国の公式宗教として異教を弾圧し、多くの書籍が失われた。

古典文明の後継者となったのは、思想を自由に探究、議論できたイスラムだった。しかしイスラム世界は、キリスト教十字軍とモンゴル侵略者に挟み撃ちにされる中、保守的な宗教的反動を強化することになる。

ヨーロッパの学者たちは、征服地に残されていた知的遺産と科学的発見の多彩さに驚愕する。交易の拡大と都市化、教育需要の高まりの中で、これらの学習の富に関して議論し、流通させはじめた。

一方で、気候変動や人口増などの影響で内戦や反乱が相次いだオスマン帝国やムガール帝国では、その原因を伝統的な信念の放棄に求め、寛容の精神を失った。その結果、これらの地域では科学とイノベーションは停滞してしまう。

ヨーロッパでも宗教改革への激しい反動は起きたが、政治、民族、言語的な分裂や地理的制約などにより、単一の強国の支配を避けることができた。

オープン性と産業革命

オープンな交換、門戸、精神の強固な組み合わせの結果が、産業革命に始まる「大いなる富裕化」である。これをいち早く実現する可能性があったのは、中国の宋とそれを引き継いだモンゴル帝国であった。

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要約公開日 2022.07.31
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