「クロッキー」という目覚まし時計がある。この目覚まし時計には車輪が付いていて、朝にアラームが鳴ると、部屋じゅうを駆け回るので、追いかけて捕まえなければならない。寝坊は万人共通の悩みなのか、ほとんど広告を打たなかったにもかかわらず、価格五〇ドルのクロッキーは発売から二年で約三万五〇〇〇台を売り上げた。
この発明の成功から、人間の心理についてさまざまな事実がわかる。基本的に私たちは二重人格だということだ。一方の自分(理性)は朝早く起きたがっていても、もう一方の自分(感情)は、あと何分か眠らせてくれたら、ほかには何もいらないと感じている。
脳では理性と感情という、ふたつのシステムが独立して働いている。本書では私たちの感情を、怠け者で、気まぐれで、短期的な報酬に目を奪われてしまう「象」に、理性を、長期的に考え、計画を練り、先を見すえることができる「象使い」に、そして置かれた環境を「道筋」に例えている。
重要なことは、変化を起こそうとしているとき、それを実行に移すのは象だということだ。目標に向かって突き進むには、象のエネルギーと勢いが必要だ。この象の強みとは対照的なのが、象使いの大きな弱みだ。象使いは頭を空回りさせてしまう。ものごとを分析しすぎたり考えすぎたりする傾向がある。
何かを変えたいなら、象と象使いの両方に訴えかけるべきだ。象使いの担当は計画や方針。象の担当はエネルギー。どちらかにしか訴えかけなければ、何も変わらない。象と象使いが協力して動けば、たやすく変化を引き起こせる場合もある。本書では行動を変えるフレームワークとして、①象使いに方向を教える、②象にやる気を与える、③道筋を定める、の三点を挙げている。この三つを同時に行うことができれば、権限や予算などなくても、劇的な変化を引き起こすことができる。
ナンダクロッキー 逃げる目覚まし時計「うまくいっている部分を探し、まねしよう」
象使いは、問題を分析するとき、その大きさに見合う解決策を探そうとするが、その心理モデルはまちがっている。
ベトナムの栄養不足を分析していた専門家は、その原因となっている大規模な制度上の問題を徹底的に分析した。公衆衛生の欠如。貧困。無知。水不足。さらに、問題を解決するために、大規模な制度上の計画を立てた。しかし、それは夢物語にすぎなかった。
この問題を担当したジェリー・スターニンは、スタッフも予算も限られていたが、「いまうまくいっている部分は?」と問いかけることでこの難題を解決した。家庭が貧乏でも栄養の足りた子どもを育てている母親の習慣を分析すると、サツマイモの葉を料理に使っていることなどが分かったのだ。
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