私たちが生きる社会には、無数の「当たり前」がある。ほとんどの悩みは、そこから外れることによって生まれる。例えば、現代日本では、お金を稼げることが「良いこと」とされ、男性は女性を、女性は男性を好きになることが「普通」とされている。そこから外れた人が悩みを抱える。悩みの原因は、社会にある常識や価値観なのである。
歴史を学ぶと、その常識や価値観が決して「当たり前」ではないことがわかる。価値観は絶対ではなく、場所や時代によって変わる。それがわかると、悩みの前提が崩れ、悩みから解放される。歴史を知ることで、悩みから自由になることが本書のねらいだ。
今の我々が持つ「当たり前」が「当たり前」ではないことを理解する。これを著者は、「メタ認知」と呼んでいる。メタ認知とは一般に、今の自分を取り巻く状況を一歩引いて客観視することを指す。そして、歴史を知ることによるメタ認知を、本書では「歴史思考」と呼ぶ。歴史思考を身につけることで、悩みから解放されることができるはずだ。
「ダメ人間である自分が嫌だ」という悩みを抱える人は多い。そういう人は人間を「偉人」と「凡人」に二分して考えているのではないだろうか。しかし、実は偉人と凡人の区別はそうはっきりとつけられるものではない。その好例として、世界史を代表する偉人、イエス・キリストを紹介する。
言うまでもなく、イエス・キリストは後世に絶大な影響を及ぼした人物だ。キリスト教がなければ科学も資本主義も今のような形では生まれていなかっただろう。
しかし、地球規模の歴史を変えた偉人であるイエスも、30歳くらいまではただの大工だった。当時の大工は社会的地位の低い職業で、せいぜい奴隷より一つ上という程度だ。その上、自分の考えを広めた期間はたったの3年程度。十字架に磔にされたことで有名だが、これは政治犯全般に適用された罰であり、イエスだけの特別な刑罰だったわけではない。
イエスとともに有名な「十二使徒」という弟子たちがいるが、これは見方を変えれば弟子が12人しかいなかったということだ。零細団体もいいところで、当時のイエスは「地方都市で処刑されたちょっとエキセントリックな元大工」にすぎなかった。
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