素人が化粧品会社を立ち上げ、ロレアルに約1500億円で売却した。マスコミが伝えるジェイミーの物語は、まるでおとぎ話のようだ。簡単に夢を叶えた、「あちら側の人間」であるかのように。しかし、ジェイミーはこんなふうに切り出す。
この本では、本当の私を見せる。そしてこの本は本当のあなたを受け入れる。私が経験し、この本で打ち明けたことが、何らかのかたちであなたの役に立ち、価値をもたらすことを祈っている。
華やかな見出しの裏側に起きた本当の物語。ジェイミーはこれから、自分の物語、失敗、格闘、そして勝利についてあなたに打ち明ける。これはジェイミーの個人的な物語であるけれど、あなたのための物語だ。
朝のニュースキャスターを務めていた20代前半、ジェイミーは「酒(しゅ)さ」と呼ばれる遺伝性の皮膚疾患を発症し、顔に赤みが出るようになった。これを隠そうと、手に入る限りのファンデーションやコンシーラーを試したが、効果はなかった。頬が真っ赤になるせいで、生放送中にプロデューサーから「顔に何かついているから、ふき取ってもらえるか」と言われたこともあった。自己不信とキャリアへの不安は募るばかりだった。
隠すものがない肌ならば見栄えを良くする化粧品はいくらでも見つかる。だけど、肌トラブルを抱える女性は、自分に合った化粧品を見つけられずにいるはずだ。化粧品会社は肌トラブルのある女性を広告写真に使うこともない。自分がなれるわけもない、加工されたモデルの画像を使った商品宣伝を見ることに、みんなうんざりしているのではないだろうか。
こうして、イットコスメティックスのアイデアが生まれた。あらゆる人に使える、カバー力がありながら、厚化粧に見えない化粧品を創り出す。そして、これまでの化粧品会社が使ってきた、実際になれるわけがないほど修正された女性の写真を使った「憧れ」のイメージを変えることに乗り出したのだ。
ジェイミーは、結婚したばかりの夫・パウロと一緒に、自宅のリビングルームを拠点に自分たちの会社を立ち上げた。あらん限りの時間と全財産をつぎ込んで、化学者や製造業社を選定。商品開発もパッケージデザインも、ウェブサイトの作成も、すべてがはじめてのことだった。週に100時間以上働いているのに、最初の3年ほどは夫婦ともに会社からの給料がなかった。
開発、テスト、改善のサイクルを数えきれないほど繰り返し、ようやくできあがった自分たちの商品は、ウェブサイトで売り出しさえすれば、大評判になるに違いないと信じていた。しかし、ウェブサイトを公開して数週間が過ぎても、1件の注文もなかった。
女性たちには商品に気づいてもらえず、小売店にも相手にされず、新聞や雑誌で取り上げてもらうこともできない。度重なるノー。減り続ける貯金残高に不安を募らせる数年を経て、ようやく手に入れたイエスは、アメリカ最大のテレビショッピング番組QVCの生放送出演だった。
QVCの生放送では、たった10分の放送時間で、6000本のコンシーラーを売るという挑戦をすることになった。コンシーラーの製造料や配送料は自分たちの負担。売れ残ったらその分の料金はなし。この時点でのウェブサイトからの注文は1日に2、3件ほど、貯金は1000ドルを切っていた。
会社の存続がかかった大きな賭けの場面で、コンサルタントたちは20代前半の美肌のモデルで商品をアピールすることを勧める。しかし、ジェイミーは自分のすっぴん写真をさらけ出し、商品の「使用前」と「使用後」を見せることにした。それは、すべての人に、自分は美しいと感じてほしかったからだ。だったら、ありのままの自分を見せる不安を乗り越えなければならない。
メイクなしでは外を出歩けなくなっていたジェイミーにとって、真っ赤になった頬を高画質の全国放送で見せるのは勇気のいることだった。しかし、それがリアルな女性の共感を呼んだのだろう。商品は飛ぶように売れ、完売した。世の女性に商品を売るために、実現不可能な美しさの象徴は必要ないと証明されたのだった。
その後も出演のたびにジェイミーはすっぴんをさらし、イットコスメティックスはQVC史上最大の美容ブランドとなった。そして、過去にノーを突きつけてきた美容小売店にアプローチし、一つひとつイエスを勝ち取った。
未開の地に参入するのであれば、自分の直感を信じなければならないことがある。そうでなければ、あの数々のノーをイエスに変えることはできなかった。
イットコスメティックスが業界での存在感を増すなか、ロレアルと面談のチャンスを得た。ロレアルと手を組めば、多くの店舗にスペースを持って、多くの女性たちに自分たちのメッセージを送り、よりハイレベルな知識をもとに商品を拡充することができるようになる。
ロレアルからの最初の返答はノーだった。全世界で成功するという証拠が、まだ足りなかったのだ。それでも、いつかイエスになると信じ、それから数年も成長を続けた。ロレアル以外にも買収に興味を示す企業が現れてから、ようやくロレアルから買収のオファーが提示された。数年前であればイエスと答えた額をはるかに上回る提示だった。しかし、今度はこちらが「ノー」と言った。自分たちはもっと価値のあるものを築いてきたはずなのだから。
ロレアルはもっと高額なオファーを持って戻ってきた。今度こそ、イエスだ。こうして、ロレアルからの12億ドルの買収が決定した。
ジェイミーの姉、ジョディは、生まれてから9日間しか生きられなかった。ある年のクリスマスイブ、母のもとを訪ねたジェイミーは、ふと手にしたジョディの写真の裏に、自分の誕生日と4カ月しか離れていない日付が書かれていることに気づいた。不思議に思って母に尋ねると、「疑っていたかもしれないけれど、あなたは養子なのよ」と打ち明けられた。
これはまったくの予想外だった。人生で誰よりも愛し信頼してきた育ての母からの告白に、自分の土台が崩れたような気がした。心の平穏を取り戻すには、生みの母を見つけなければならなかった。
生みの母の情報を見つけてくれたのは、プロの探偵だった。最初は会うことを拒絶されたものの、情報を入手してから5カ月後、ようやく実の母との再会が叶った。生みの母ローズマリーは、出会ったばかりの男性との一度きりの行為でジェイミーを妊娠し、両親以外の人から妊娠の事実を隠し通し、生まれたばかりの子どもを養子に出したのだった。すでに家庭を築いていたローズマリーにとって、秘密と向き合うことは困難だったはずだ。それでも幸運なことに、ローズマリーとジェイミーは信頼関係を築いていった。
ジェイミーとパウロは10年近く奮闘しても子どもを持つことができなかった。事業を売却して40歳を迎えようとしていたジェイミーは、代理母出産を決断した。
代理母となってくれた女性は、すでに5人の子どもがいて、子どもを授かるためにつらい時間を過ごしている他の家族のために、代理母の活動をすることが自分の使命だと思っていると話してくれた。誰かのために子どもを産むことを使命だと感じられるほど、無私無欲になれる代理母の思いに心を打たれながら、彼女とともに赤ちゃんを迎えられることを幸運に思った。
ジェイミーとパウロの娘は、代理母の体を借りて、出産予定日よりも3週間早く誕生した。それまでのジェイミーは、なんでも自分でこなすタイプの人間だったが、人生は一人で生きるものではないと思い知った。自分ではない女性とその家族が、自分たちでは得ることのできなかった贈り物を授けてくれた。代理母と娘が、ジェイミーの心と人生を変えたのだった。
初めて娘を腕に抱くのは奇跡的な瞬間だった。一方、生まれた日に実の母に抱いてもらえなかったジェイミーは、自分の価値が認められていないような気がした。
42歳になったジェイミーはある週末、ローズマリーに気持ちを打ち明けお願いした。「私を抱っこしてくれる? 赤ちゃんみたいに」。
母は目に涙を溢れさせ、「いいわ」と答えた。自分よりも5センチは背の低い母の膝によじのぼり、自分が重いと思われるだろうかという雑念も振り払って、全体重を母に預けた。母と娘は初めて抱き合った。「もう二度と手放さない」という約束をしながら共に泣き、癒された。
心からの想いを明かすことは、誰かとつながり、癒しを手にするカギになる。癒されるために、あなたが必要なものを求める力を信じよう。
ジェイミーは、美容業界の最高の名誉の一つである、CEWの優秀賞をおくられることになった。授賞式では10分程度のスピーチがある。最初は支えてくれた人に感謝の想いを述べようと思ったが、世界中の女性が目にする美のイメージについて采配を振るう人々が一堂に会するこのイベントで、無難なスピーチをしていいのだろうか。これは、美容業界に大変化を起こすチャンスなのではないか。
ジェイミーは美容会社の意思決定者たちに好かれるスピーチをするのではなく、「変わりなさい」と挑戦状を叩きつけることにした。非現実的なほどに加工を加えた有名人の画像を憧れのイメージとして掲げて良いのか。世界中の女性の人生に影響を与えるあなたたちは、女性たちの人生をどう形作るべきだと考えるのか。
勇敢な選択は多くの場合、正しい結果に結びつく。
ジェイミーは長らく、フォーブス誌の「自力でもっとも稼いだアメリカ人女性」というリストに掲載されたことを恥ずかしく思っていた。「もっとも稼いだ」ことを自慢するのは、傲慢な目立ちたがり屋のようだ。しかし、つい最近気づいた。経済的に成功した女性の姿は、他の女性たちにも絶大な影響を与えるはずだ。なぜ自分はこの力をみくびって、隠そうとまでしたのだろうか。
女性はあまりにも長い間、謙虚であることを求められ、自慢するのは見苦しいと教わってきた。男性は、成功を目指せば褒美がもらえる。いまだに根強いこうした思い込みを打破するには、女性はすべての女性のために、自分たちの勝利を互いに祝う必要があるのだ。
自分を小さく見せたいという想いが頭をよぎったら、自分の勝利は他の女性の成功にもつながると考えてみよう。あなたの光を輝かせる力を信じてほしい。彼女の未来もあなたの未来もそこにかかっているのだから。
ジェイミーは幾度となく、成功の秘訣を尋ねられた。必死に働き、あきらめなかった。そして、何をおいても言えるのは、自分にはできると信じたことだ。自分が十分すぎる存在であることを信じ、自分の光を輝かせる力を信じよう。
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