2022年2月に開始されたロシアのウクライナ侵略(以下ロシア・ウクライナ戦争)は、第二次世界大戦後の欧州で発生した最大規模の国家間戦争だ。プーチン大統領が戦争を始めた動機を、現時点で正確に論じることはできない。それは後世の歴史研究に任せ、ここではロシア・ウクライナ戦争の性質について論じていく。
19世紀、プロイセンの軍人だったカール・フォン・クラウゼヴィッツは著書『戦争論』で、戦争を「他を以てする政治の延長」と定義した。それは国家が「政治」的な目的を達成するために暴力を使う闘争であり、クラウゼヴィッツは戦争を「拡大された決闘」にたとえた。こうした戦争をここでは「古い戦争」と位置付けよう。
その後、1990年代から2000年代にかけて、この戦争モデルに対して、次のような議論が盛んになった。『戦争論』での戦争は歴史的に見ると必ずしも普遍的なものではない。近代国家が出てくる前の軍事力は貴族、教会、都市などに広く偏在し、名誉、宗教的使命など、政治的目的以外にもさまざまな目的で行使された。破滅を伴う核兵器が登場してからは、政治的目的達成のための国家間戦争は合理的ではなくなった。超国家的機構、地域間機構、非国家主体などの登場により、国家は相対化されていく。冷戦終結後は多くの社会主義国家が崩壊し、米ソの戦略に支えられていた国家が失敗国家化していった。こうした状況下で、人々は国家と自己を同一化しなくなり、戦争を避けるようになっていった。
多くの論者は、クラウゼヴィッツの戦争は過去のものになっていくだろうと予想した。21世紀における戦争は、国家同士の大きな軍事衝突とは限らない。その動機も政治的目的の達成とは限らず、勝利ではなく戦争という状況のなかで利益を得ることにすぎない、というわけだ。
しかし、今回のロシア・ウクライナ戦争は全体的に「古い戦争」の特徴が色濃い。
3,400冊以上の要約が楽しめる