新世代オープンイノベーション

JR東日本の挑戦 生活者起点で「駅・まち・社会」を創る

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JR東日本の挑戦 生活者起点で「駅・まち・社会」を創る
出版社
出版日
2023年02月13日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

日立製作所、NEC、NTT、KDDI、凸版印刷――。名立たる日本企業が手を組み、2017年から果敢にオープンイノベーションに取り組んできた。主導したのはJR東日本。「モビリティ変革コンソーシアム」、通称MICをハブとして、様々なスタートアップを含む約130社が集結し、社会課題の解決に知恵を絞ってきた。

MICはモビリティと名を冠しているものの、交通系を問わず、実に多様な企業・団体が名を連ねる。その共通理念は、「すべての人の個性が尊重され、つながり、豊かさ・信頼が拡がる社会の実現」を目指すというものだ。常に「生活者視点」を最重視する。

このMICの営みを追った本書は、3つのパートから成る。第1~2章は不確実性の時代に必要なイノベーションについてまとめ、第3~4章でMICの考え方や課題解決の成果を紹介し、第5~6章ではオープンイノベーションを成功に導く7つの条件やMICの次期構想を解説している。要約ではその順にポイントを抽出した。

MICが発足した2017年当初は、その3年後の東京五輪・パラリンピックも視野に、活動を強化していた面もある。しかし新型コロナウイルスの猛威により、社会のありようは一変した。MICの参画者らはこの変化に柔軟に適応し、確実に成果を積み上げ、知見や経験を蓄えてきた。まさに複数産業横断型の小さく閉じない枠組みにより、本領を発揮した成功例と言える。

MICは当初フェーズの5年を終え、フェーズ2へと移行する。「空飛ぶクルマ」など、かつては夢物語だったような構想も、地に足を着けて真摯に検討を進めてきた大規模なコンソーシアム。その軌跡と展望は、これから社会、世界に起こる変革を占ううえで重要な示唆を与えてくれるだろう。

著者

入江洋(いりえ ひろし)
1991年東日本旅客鉄道(JR東日本)に入社。本社経営企画部、各支社で経営戦略や中長期計画の策定・推進、CSR、ESG経営推進業務等に従事。2020年より技術イノベーション推進本部(現イノベーション戦略本部)にて、モビリティ変革コンソーシアム(現WaaS共創コンソーシアム)の事務局長を務め、コンソーシアム全体運営を推進。
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程修了博士(経営学)
著書「民営化企業の経営戦略と組織変革」交通新聞社、「WaaS(Well-being as a Service)モビリティ変革コンソーシアムによるスマートシティへの挑戦」LIGARE

原田裕介(はらだ ゆうすけ)
アーサー・ディ・リトル・ジャパンマネージングパートナー日本代表、アジアヘッド、本社ボードメンバー
社会・産業・技術の変化の本質を捉えた、企業変革を多数経験。近年は、産業を超えた新たな社会システムや事業モデル策定に関するプロジェクトに従事。入社以来、「イノベーションを継続的に創出する経営事業基盤の構築」と「自社の存在意義を踏まえた成長戦略の策定」に一貫して取り組む。
東京工業大学総合理工学大学院修士課程修了。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修了。同(MIT)技術&政策大学院修了

本書の要点

  • 要点
    1
    「モビリティ変革コンソーシアム(MIC)」は1社単独ではなし得ない変革を実現していくためのオープンイノベーションのプラットフォームだ。
  • 要点
    2
    「イノベーション3.0」は「生活者視点」に基づき、N対Nで共創していく新世代型の変革である。
  • 要点
    3
    MICの持続発展的な活動には、「既存の枠組みにとらわれずに全体方針をデザインする」など〝7つの成功の条件〟がある。

要約

新世代のイノベーション

1対1ではなくN対N

気候変動問題や少子高齢化をはじめ現代は様々な社会課題が顕在化している。その解決に向け、社会や産業のシステムの転換が急務だ。

1社単独ではなし得ないような変革をいかに実現していくべきか。あらゆる産業・企業が課題に直面している。

ご多分に漏れずこの課題に対峙していたJR東日本は2016年、「モビリティ革命」の実現を目指した〝技術革新中長期ビジョン〟を発表した。その実現には従来の枠を超えたイノベーション創出活動が必要だった。

本書のテーマの中核を成す「モビリティ変革コンソーシアム(Mobility Innovation Consortium、以下MIC)」は、そうした背景から新たなオープンイノベーションの取り組みとして2017年10月に始まった。第1フェーズの区切りは5年間と決まっていた。

MICはオープンイノベーションを1対1ではなくN対N、つまり多対多でアジャイル(機敏)に進めようという野心的な試みだ。約130社が参加するまでの大規模なプラットフォームに成長し、様々な成果も出ている。

第1フェーズを経て次期コンソーシアムのスタートを控えた2023年2月、5年間を総括し、より質の高い発射台から次のフェーズに移行する狙いで本書はまとめられた。

VUCA時代の課題解決
出典:アーサー・ディ・リトル

「将来の予測が困難なVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」の現代、個別企業による製品開発や顧客との共創といった視点だけでは時代の要請に応えられない。幅広いプレーヤーと課題解決のためのビジョンを共有し、社会や産業の仕組みの枠を超えて取り組まねばならない。

こうした取り組みはソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社MONET Technologiesによる「MONETコンソーシアム」などがあり、複数社が業種を超えてオープンに協働し、変革を起こそうとするのが特徴だ。

MICはその先駆けとされ、後続する様々なオープンイノベーションのモデルとなってきた。多様な産業界や大学、スタートアップ、さらには自治体や住民を巻き込みながら、モビリティの在り方や周辺エリア、関連技術を根本から見つめ直し、変えようとする活動だ。

JR東日本がMICを始めた背景には、5つの社会・産業・生活への洞察があった。すなわち①「ICT変革」「産業変革」「社会変革」という3つのパラダイムシフトが同時に起きている前例のない時代、②イノベーション創造の在り方の大きな変化、③産業の枠組みを超えた自社提供価値の見直しと新たな事業領域の現出、④「人中心」の社会・産業構造への展開、⑤都市機能やサービスの進化に必要な2つの枠組みのリデザインの視点だ。

そうした5つの社会的変化を背景に誕生したMICは、常識を覆すような、新しい視点による変革が求められてきた。これからの社会課題を解決できるのは、企業が1対1で取り組むような従来型の協業ではない。業界横断的に一見無関係にさえ見える多数の企業が集まり、N対Nでそれぞれの製品やサービス、ノウハウを、生活者(個)の目線やうれしさを大切にしながら組み合わせて起こす、「新世代のオープンイノベーション」である。

イノベーション3.0
出典:アーサー・ディ・リトル

社会課題の解決には「エコシステム型オープンイノベーション」が求められる。本書でのエコシステムは、社会や産業のシステムの転換に必要なN対Nの座組みを示し、それを作り替えることで新しいイノベーションを引き起こすことを目指す。

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要約公開日 2023.06.23
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