気候変動問題や少子高齢化をはじめ現代は様々な社会課題が顕在化している。その解決に向け、社会や産業のシステムの転換が急務だ。
1社単独ではなし得ないような変革をいかに実現していくべきか。あらゆる産業・企業が課題に直面している。
ご多分に漏れずこの課題に対峙していたJR東日本は2016年、「モビリティ革命」の実現を目指した〝技術革新中長期ビジョン〟を発表した。その実現には従来の枠を超えたイノベーション創出活動が必要だった。
本書のテーマの中核を成す「モビリティ変革コンソーシアム(Mobility Innovation Consortium、以下MIC)」は、そうした背景から新たなオープンイノベーションの取り組みとして2017年10月に始まった。第1フェーズの区切りは5年間と決まっていた。
MICはオープンイノベーションを1対1ではなくN対N、つまり多対多でアジャイル(機敏)に進めようという野心的な試みだ。約130社が参加するまでの大規模なプラットフォームに成長し、様々な成果も出ている。
第1フェーズを経て次期コンソーシアムのスタートを控えた2023年2月、5年間を総括し、より質の高い発射台から次のフェーズに移行する狙いで本書はまとめられた。
「将来の予測が困難なVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」の現代、個別企業による製品開発や顧客との共創といった視点だけでは時代の要請に応えられない。幅広いプレーヤーと課題解決のためのビジョンを共有し、社会や産業の仕組みの枠を超えて取り組まねばならない。
こうした取り組みはソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社MONET Technologiesによる「MONETコンソーシアム」などがあり、複数社が業種を超えてオープンに協働し、変革を起こそうとするのが特徴だ。
MICはその先駆けとされ、後続する様々なオープンイノベーションのモデルとなってきた。多様な産業界や大学、スタートアップ、さらには自治体や住民を巻き込みながら、モビリティの在り方や周辺エリア、関連技術を根本から見つめ直し、変えようとする活動だ。
JR東日本がMICを始めた背景には、5つの社会・産業・生活への洞察があった。すなわち①「ICT変革」「産業変革」「社会変革」という3つのパラダイムシフトが同時に起きている前例のない時代、②イノベーション創造の在り方の大きな変化、③産業の枠組みを超えた自社提供価値の見直しと新たな事業領域の現出、④「人中心」の社会・産業構造への展開、⑤都市機能やサービスの進化に必要な2つの枠組みのリデザインの視点だ。
そうした5つの社会的変化を背景に誕生したMICは、常識を覆すような、新しい視点による変革が求められてきた。これからの社会課題を解決できるのは、企業が1対1で取り組むような従来型の協業ではない。業界横断的に一見無関係にさえ見える多数の企業が集まり、N対Nでそれぞれの製品やサービス、ノウハウを、生活者(個)の目線やうれしさを大切にしながら組み合わせて起こす、「新世代のオープンイノベーション」である。
社会課題の解決には「エコシステム型オープンイノベーション」が求められる。本書でのエコシステムは、社会や産業のシステムの転換に必要なN対Nの座組みを示し、それを作り替えることで新しいイノベーションを引き起こすことを目指す。
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