時代を彩る大ヒット作品の裏には、ルールや慣習を突き抜けた伝説的な仕事人が存在した。ただし、彼らは最初から天才であったわけではない。
本書は、日本のエンタメ黄金時代に活躍したプロデューサーやディレクター、クリエイターが、どんな思考回路でヒット作を生み出したかを明らかにする。彼らは独創的なアイディアで業界の慣習を打ち破る「天才」と称されることが多い。だが実際には、普通の人々が努力と工夫で成功を収めたのである。彼らの共通点は、「エンタメ脳」と呼ばれる独自の発想と、個人の力を発揮できる環境にある。
今の日本のエンタメ業界は停滞期にあり、新たな「尖った人材」が求められている。組織が彼らの力を発揮できるような環境を提供し、成長を支援することが重要だ。そして成功のカギは尖った人材を許容し、挑戦を推奨する組織風土にある。
土屋敏男は1979年に日本テレビに入社した。現在は社長室R&Dラボでスーパーバイザーを担っている。土屋敏男の手掛けた番組といえば、やはり『電波少年』だろう。事前アポイントなしにロケを敢行する、ヒッチハイクでユーラシア大陸を横断する、懸賞商品だけで生活しながら100万円を稼ぐ、などの人気企画で有名になった。本番組は1993年から1998年まで視聴率を右肩上がりに伸ばし、ピークは視聴率30%を記録した超人気番組である。
土屋はコストを考えて番組を作ったことはないという。そのため一度も黒字――テレビ的には想定される視聴率に対して想定されるコストに収めるということ――を出したことはない。視聴率が常に想定を上回ったことによって成立してきた。このような作り方は、サラリーマンとしてはほとんど例を見ない。しかし本人は、入社してしばらくは大人しい社員だった。
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