「先生、社会人って時間がなさすぎます! 助けてください!」
研究室にバタバタと駆け込んできたのは青井春香だ。そんな春香を、東都大学の教授、黒野優は「毎年恒例ですね、青井さん」と迎え入れた。お洒落な英国紳士のような黒野の正体は「時間の神」である。
春香は黒野の研究室の卒業生だ。8年前に大学を卒業して大手メーカーに就職し、営業部でバリバリ働いている。1年に1回は仕事の忙しさに耐えきれなくなり、黒野のもとに駆け込んでくるのがお決まりだ。
愚痴をこぼす春香に、黒野は問いかけた。「やればやるほど忙しくなって全然ラクにならない。やらないといけないことが多すぎて、時間が足りない。そんな状態から抜け出す方法を知りたいですか?」
春香の答えはもちろん「イエス」だ。この日から2人のトレーニングがはじまった。
黒野は手はじめに、春香に質問をした。
「手元に投資できるお金が10万円あったとします。1年後に20万円になって返ってくる投資先Aと、10万円のまま返ってくる投資先B。青井さんなら、どちらに投資しますか?」
もちろん答えはAだ。「先生、わたしのことバカにしてますか?」と憤る春香に対し、黒野はさらに問いかける。
「青井さんの24時間という『時間の投資』はどうなっているでしょうか?」
この質問の意味は「24時間を何に使っているか」ということだ。時間の使い方を改善するには、時間を投資資金と同じように捉え、その使い道や得られるリターンを考えていく必要がある。
春香の場合、一番時間を使っているのは「仕事」だ。だが、時間を使うことが投資だとは認識していなかった。ただ、毎日やるべきことをこなすだけで精一杯だったからだ。
そんな春香に対し、黒野は「それでいい」と言う。まずは「わたしたちは24時間という投資資金を毎日もらっていて、それを何かに投資して生きている」という感覚を持ってみてほしい、と。その感想をシェアすることが、来週の課題となった。
翌週も黒野の研究室にやってきた春香は、「『時間を使うことは投資』と考えると、意味のないことに時間を使うのがもったいないと感じるようになりました」と話しはじめた。意味のない時間だと感じたのは、ムダに長い会議や帰宅後にダラダラとスマホをいじる時間などだ。
「ただですね、先生」と、春香は深刻そうなそぶりを見せた。「意味のないことへの時間投資はやめるぞ! と思ったんですけど、何に時間を投資すればいいのかがわからないんです」
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