著者はあるとき、アメリカでもっとも人気のある自己啓発セミナー「やる気を出せ!」に潜入した。このセミナーで教えられる理論は、幸福と成功についてもっぱら考えるようにして、悲しみや失敗については考えないことにしなさい――そうすれば自然に幸福と成功が手に入る、というものだ。
このように、私たちは不安や悲しみなどのネガティブな感情を排除して幸福を追求しようとする。だが、その努力はしばしば空回りしているのではないか。
「アイロニック・プロセス・セオリー(皮肉なプロセス理論)」として知られる研究がある。「ある思考や行動を抑制しようとする努力は、皮肉なことにそれらをより広く普及させる結果に終わる」というものだ。ネガティブな思考を避けてポジティブに考えようとすることで、その注意の先がネガティブ思考に移ってしまうことは往々にしてある。
楽天主義やポジティブ思考の良し悪しを語るわけではないが、それへの偏向を是正する可能性として、幸福への「ネガティブな道」があるのではないか。それはポジティブ性向への「解毒剤」といったところだ。
自己啓発の世界では、「物事が順調に進行する様子を頭に描きなさい。そうすれば、実際にすべてがうまくいく可能性が増大する」とよく言われる。これは「ポジティブ・ビジュアリゼーション(積極的視覚化)」という技法だ。
一方で、ポジティブ・ビジュアリゼーションには問題点もある。
3,400冊以上の要約が楽しめる