ほとんどの人が、自分が老いることも、それが仕事ぶりを変えてしまうことも、遠い未来のことだと思い込んでいる。実際は、高いスキルを求められる職業であればほぼ確実に、30代後半から50代前半にかけてキャリアの落ち込みが始まる。
ノースウェスタン大学で起業家精神論を研究するベンジャミン・ジョーンズ教授が行った調査では、主な発明家やノーベル賞受賞者が大発見をする時期は、30代後半が最も一般的であることが明らかになった。『種の起源』で歴史に名を残したあのダーウィンも、キャリア後半の落ち込みによって不幸になった一人だ。創造性に陰りを感じ、晩年には「私にとって人生はすっかり退屈なものになってしまった」とこぼしている。
パフォーマンスの落ち込みに関しては、カルフォルニア大学のディーン・キース・サイモントン教授が開発した「クリエイティブな職におけるキャリア経験年数と平均的な生産性の関係」のグラフによって予測できる。分野によって幅はあるものの、キャリア経験年数20年をピークとして落ち込む形になっている。キャリア20年とはその職業の「半減期」(それまでに生涯で生み出す仕事の半分が生産される時期)であり、衰えは避けられないことを示す。
では、なぜ落ち込みは起こるのだろうか。有力な説として脳の組織、特に前頭前皮質のパフォーマンスの変化が挙げられる。前頭前皮質は「ワーキングメモリーや実行機能、抑制機能(目の前の任務と無関係な情報を遮断し、集中力やスキルを高める能力)を担う中枢機関」だ。前頭前皮質が発達している人は、様々な専門分野で上達していく。
中年期に入ると前頭前皮質の働きが落ちる。すると、素早い分析や創造的な発明が困難になる。気が散りやすくなり、マルチタスク処理が苦手になる。「ながら勉強」は大人のほうができないのだ。集中したければ、スマートフォンを切り、無音の環境に身を置くとよい。そして、名前と事実を思い出すことが困難になる。膨大な情報で溢れかえる脳内を検索する能力が落ち、必要なときに思い出せない自分に腹を立てる。
人間は昔の栄光を単純に楽しめないし、「次の成功」を渇望して走り続けようとする。しかし能力は低下していく一方なので苦しみは増すばかりだ。これに対処するには、現在のあなたでは未来はやってこないことを受け入れ、新しい強みとスキルを身につけなくてはならない。そのための新しい考え方を紹介しよう。
1971年、イギリスの心理学者レイモンド・キャッテルは「人には2種類の知能が備わっているものの、各知能がピークを迎える時期は異なる」と提唱した。
1つ目は「流動性知能」だ。推論力、柔軟な思考力、目新しい問題の解決力を指す、いわゆる「生得的な頭の良さ」である。これは成人期初期にピークに達し、30から40代に急速に低下しはじめるという。つまり、キャリアの落ち込みは「流動性知能の衰退によるもので、ハードワークで成功した人たちはほぼ全員、キャリア初期は流動性知能に頼っていた」と言えよう。
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