寓話は、教訓や知恵などの〈教え〉を楽しみながら吸収できる点に魅力がある。寓話は核に〈教え〉があり、物語がそれを包み込む「二重構造」をしている。なぜそのような構造をしているかは、次の3つの理由が考えられる。
1つ目は、説教臭さが減ることである。私たちは年齢を問わず、説教されると拒否感を抱く。しかし物語なら喜んで聞き、その中から〈教え〉を楽しみながら見つけ出そうとするものだ。
2つ目は、〈教え〉が理解しやすくなることだ。「勇敢であれ」と言われてもその意味をつかむのは難しいが、具体的に物語で表現されるとわかりやすくなる。
3つ目は、物語に入り込むことで〈教え〉がより強く心に刻まれることである。主人公への共感や反発など、さまざまな感情が沸き起こることで、記憶にも残りやすくなるからだ。
人生は後戻りできない旅である。青年期から熟年期まで、誰もがその段階の初心者として毎日を生きている。知らない道を歩くときに道路標識が役に立つように、〈道しるべ〉は我々にも有益だ。よく生きるための〈教え〉が凝縮されている寓話は〈人生の道しるべ〉になるだろう。
本書では寓話(教訓を込めた作り話)のほか、逸話や昔話、神話、実験研究、思考実験など、何らかの〈教え〉のある77の「短いおはなし」が著者の見解とともに紹介されている。要約ではそこから7つの「おはなし」を抜粋する。
グリム童話の「寿命」という話から始めよう。
神様は世界を創った後、すべての生き物の寿命を定めることにした。最初にやってきたロバには30年の寿命を与えようとしたが、ロバは「朝から晩まで重い荷物を運ぶ私には、30年は長すぎます」と訴えた。神様はロバに18年の寿命を与えることにした。
その後に現れた犬と猿にも30年ずつ与えようとしたが、どちらもそれを拒否した。犬は「私がどれだけ走るか知っていますか。私の足は30年ももちません」。猿は「人間を笑わせるために、30年もおかしな真似をするのはつらいです」と訴え、犬は12年、猿には10年の寿命が与えられた。
最後に現れた人間に神様は「30年の寿命で十分か」と聞くと、人間は「そんなに短いんですか?」と驚いた。人間は「自分の家を建て、ようやく人生を楽しもうってときに死ぬのはあんまりだ。もっと寿命を延ばしてください」と懇願した。そこで神様はロバの18年をやろうとしたが、「まだ足りない」と言う。神様はさらに犬の12年、猿の10年を付け足して、人間は70年生きることとなった。
人の一生には、楽しいことも苦しいこともある。この物語は、人生の苦しい部分をロバの運命、犬の運命、猿の運命と重ねている。30年を過ぎた後の18年は、ロバのように重い荷物(家族や仕事)を背負って働かなければならない。次の12年は、働かされ続けた犬のように身体が衰えていく。最後の10年は頭のはたらきが鈍くなり、猿のように間抜けになって笑いものとして生きなければならない、ということだ。
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